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こんにちは、妹尾です。LinkedIn:妹尾 進吉 (Senoo Shinkichi)
Knowledge26 CreatorCon レポーターとして現地からお届けする第3弾。
ラスベガスの巨大なKeynote会場に足を踏み入れると、肌を刺すような空調の冷気と、数千人の参加者が発する静かな熱気が入り混じっていました。
暗転したステージに光が差し込み、次なるAI時代の幕開けを告げる物語が始まります。
そこで語られたのは、華々しい新機能の羅列ではありません。ServiceNowがこの1年で打ち出してきた戦略の答え合わせであり、企業が直面するリスクに対する警鐘とソリューションでした。
出典:投稿者本撮影
※ 本記事の内容は筆者個人の見解およびレポートであり、所属する組織の公式な見解や発言を代表するものではありません。
サマリー
Knowledge26において、ServiceNowはAIを単なる思考するツールから、自律的に行動する従業員へと進化させる包括的な戦略を発表しました。特徴的な3つの柱が打ち出されています。
- AIによる業務UXを一元化する 「EmployeeWorks」
- AIによる自律的な業務完遂を実現する 「Autonomous Workforce」
- AI活用の管理・統制を行う 「AI Control Tower」
出典:Knowledge 2026の歩き方より抜粋
企業のAI投資は前年比110%増と急増する一方、実際にAgentic AIでビジネスプロセスに影響を与えた企業は10社中わずか1社にとどまっています。ServiceNowは、NVIDIA、Microsoft、Googleらとのパートナーシップを深め、企業のデータを移動させることなく業務の文脈を解釈し、ガバナンスとセキュリティを維持したまま業務を完結させるAI管制塔としての地位を確立しようとしています。
この記事では、Keynoteの内容に加えて、ServiceNowがなぜこの発表に至ったのか、2025年から2026年にかけてどのような戦略を進めてきたのか、そしてユーザーは今後どう動くべきかを整理します。
新発表よりもリスクを先に語ったBill McDermott氏
Keynote初日は、Knowledgeの名物とも言えるBill McDermott氏(President and CEO of ServiceNow)の力強い演説から始まります。
彼は非常にエネルギッシュでストーリーテリングに長けたスピーカーとして知られており、単なる製品発表にとどまらず、世界経済や社会情勢を背景にした壮大なビジネスビジョンを提示するのが恒例のスタイルです。
出典:ServiceNow Knowledge 2026 オンデマンド配信動画より抜粋
通常であれば将来のビジョンや新機能を打ち出すところですが、
今回は「AI Control Tower」という既に公開済みのコンセプトを起点に、AIリスクへの対応から語り始めました。
「構想」から「実行」へのフェーズ移行
2025年のKnowledge 25で、McDermott氏は「我々はチェスをしている。チェッカーではない」と語り、競合他社が生成AIの新機能開発に追われるなかでServiceNowは数手先を読んでいると強調しました。 AI Control Towerはあの時点ではロードマップ上の構想であり、ビジョンとしての色合いが強いものでした。
1年後の2026年、同じAI Control Towerが 「Agentic AIを制御するための不可欠な基盤」 として再定義されています。
- 2025年:AIでバラバラな組織を繋ごうというビジョンとしての提示
- 2026年:爆発的に増えるAIエージェントが暴走しないよう、人間が手綱を握るための具体的な管理基盤としての提示
この1年で、市場の現実がServiceNowの読みに追いついた形です。
サイバー犯罪という第3の経済大国
McDermott氏はまず、企業が直面するリスクの規模感を示しました。
サイバー犯罪は月間1兆ドル規模の脅威に達しており、
経済規模に例えると米国・中国に次ぐ世界第3位に相当します。
ガバナンスなしにAIを展開し続けることは危険な死角だと警告されました。
さらに衝撃的だったのは、AIエージェントが本番データベースや顧客データ、バックアップまでをわずか9秒で消去してしまった失敗事例が実際に起きているという指摘です。
McDermott氏は次のように述べています。
"You can't have a probabilistic solution for an enterprise. It has to be deterministic and it has to be right every time."
(企業に確率論的な解決策は通用しない。決定論的で、毎回正しくなければならない。)
生成AIは本質的に確率的です。同じ質問を3通りの言い方で聞けば3通りの答えが返ってくる。
消費者向けアプリケーションなら許容されますが、給与計算、調達、コンプライアンス、受注管理においてそれは許されません。
なぜ「既出」のAI Control Towerを再び強調したのか
多くの企業が生成AIを導入した結果、シャドーAIやガバナンスの欠如という課題に直面しています。
McDermott氏が既に発表済みのAI Control Towerをあえて強調したのは、市場が求めているのがさらなる新機能ではなく、
今あるAIをどう安全に管理するかだと判断したからでしょう。
McDermott氏はこうも語っています。
"Every worker on average opens seventeen tabs a day to do their job. That's AI chaos, not AI control."
(従業員は平均して1日に17のタブを開いて仕事をしている。これはAIの混沌であって、AIの統制ではない。)
NVIDIAとの連携を深め、より実務的で堅牢な管制塔へと進化させたことを示すために、初日のメインステージで時間を割いただと思いました。
なぜ「小さな買収」から「巨額M&A」へ舵を切ったのか
Keynoteの背景を理解するには、ServiceNowがこの1年で何をしてきたかを振り返る必要があります。
ServiceNowの歴史を知る人にとって、2025年の大型買収ラッシュはこれまでの戦略からの明らかな転換点でした。
「小さな買収と深い統合」が伝統的な強みだった
2014〜15年頃のServiceNowはITSM(ITサービス管理)の専門企業でした。
Knowledgeイベントもサービスカタログやコンフィグレーション管理の技術解説が中心の、IT技術者向けの勉強会に近い存在でした。
転機は2015年。当時CEOだったFrank Slootman氏がKnowledgeのステージで、サービスマネジメントはERP(基幹システム)、CRM(顧客管理)、HCM(人事管理)と並ぶ企業カテゴリーになると宣言しました。 ここからServiceNowの「第一の再発明」が始まり、CMDB(構成管理データベース)を中核とした「1つのプラットフォーム、1つのデータモデル」というアーキテクチャがIT以外の部門へも拡張されていきました。
この機能拡張を裏で支えていたのが、非常に緻密な買収戦略です。SalesforceやSAPが完成されたスイート製品を大型買収し、その後のシステム統合(ミドル統合)に苦労するのとは対照的に、ServiceNowはMirror42、SkyGiraffe、Room Systems、Passage AI、Element AIといった「小規模だが尖った技術」を持つ企業を次々と買収してきました。
そして、獲得した技術をNow Platformのコア機能として深くネイティブに統合していくことで、まるで最初から自社開発であるかのように自然な機能拡張を続けてきたのが、同社の最大の強みでした。
2025年の転換 — 外部プラットフォームの統合と大型M&A
しかし、その伝統的なパターンが2025年に一変します。
| 時期 | 買収先 | 金額 | 狙い |
|---|---|---|---|
| 2025年1月 | CueIn AI | 非公開 | CX向けAIコパイロット |
| 2025年3月 | Quality 360 | 非公開 | 製造業の品質管理 |
| 2025年3月 | Moveworks | 28.5億ドル | エンタープライズ検索と従業員体験 |
| 2025年4月 | Logik.ai | 非公開 | CRM向けAI |
| 2025年5月 | data.world | 非公開 | データインテリジェンス |
| 2025年12月 | Veza | 10億ドル越え | ID管理とアクセスガバナンス |
| 2025年12月 | Armis | 77.5億ドル | サイバーフィジカルセキュリティ |
Agentic AI、CRMやCPQ(複雑な見積もり業務)、そしてセキュリティや工場などの物理インフラ(OT)、IDガバナンス領域への拡張を狙い、120億ドル超規模の案件を含めた大型買収に踏み切りました。特にMoveworksは、従来の「プラットフォーム内部への深い統合」とは異なり、外部プラットフォームとして連携する新たなパターンの象徴です。
これまで「小さな買収と深い統合」を信条としてきた会社が、なぜ大型の外部プラットフォーム連携や巨額買収を急いだのか。理由は3つあります。
ガバナンスのボトルネックを解く
企業がAIを導入しない最大の理由は、セキュリティと信頼性への懸念でした。McDermott氏はこの障壁を取り除くこと自体が商機だと判断しています。実際、2026年Q1決算ではこの読みが数字に表れ始めました。Now Assistの年間契約額100万ドル超の顧客は前年比130%以上増加しています。
自社開発では間に合わないスピード感
Agentic AIのオーケストレーション層は、早期に確立した者が圧倒的に有利です。一度標準化されると切り替えが極めて困難になる。McDermott氏自身が「ウォール街とメインストリートの乖離を今、機会として使い、ひたすら構築する」と語っています。
管制塔には全方位の視界が必要
AIエージェントはソフトウェア上だけで動くわけではありません。工場のOTシステム、病院の医療機器、IoTデバイスにも命令を出す。見えないものは統治できない。Armisに77.5億ドルという過去最大の金額を投じたのは、デジタルに加えて物理的なインフラまで含めた企業全体を管制塔の視界に入れるという意思表示です。
第二の再発明 — ワークフロー企業からAI管制塔へ
ServiceNowのポジショニングが根本的に変わりつつあります。ここがこの記事のポイントです。
第一の再発明を振り返る
2015年から始まった第一の再発明は、ITSMから全社ワークフローへの拡張でした。
SAPのERPにもWorkdayのHCMにも手を出さず、それらの上に乗ってワークフローで繋ぐ。
競合を脅かさない共存型のポジションが受け入れられ、売上は着実に伸びました。
第二の再発明が意味するもの
Knowledge 2026で示された戦略は、ワークフローの延長ではありません。ServiceNowのPaul Fipps氏(CRO)の発言が、この変化の本質を端的に表しています。
"The LLM reasons, but the platform executes."
(LLMは推論する。プラットフォームが実行する。)
推論能力はコモディティ化していく。防衛可能な価値は、業務を確実に実行する基盤のほうにある。ServiceNowはそこに賭けています。
変化の本質は、ワークフローの中で人を助けるという立場から、ワークフロー自体をAIが実行するという立場への転換です。ワークフローは依然としてインフラとして機能しますが、視線は仕事そのものの自動化に向いています。
競合他社に対する姿勢も変わりました。かつては「SAPやWorkdayと共存する」と訴えていましたが、今は「これらのベンダーはデータストアになるべきで、アクションが起きる場所はServiceNowだ」と、より踏み込んだ主張をしています。McDermott氏の言葉は明快です。
"We are the AI agent of the agents. We manage everyone else's agents too. They can't manage our agents because they don't do what we do the way we do it."
(我々はエージェントのエージェントだ。他社のエージェントも管理する。彼らは我々のエージェントを管理できない。我々と同じことを同じやり方ではできないからだ。)
K26の3本柱と買収の対応関係
各買収がK26の発表にどう繋がったかを整理すると、戦略の輪郭が見えてきます。
| K26の発表 | 役割 | 背景にある買収 |
|---|---|---|
| Otto / EmployeeWorks | 全社統一の対話型AI窓口。テキスト・音声で業務を指示すると、裏側の複数システムを横断して実行する | Moveworks(28.5億ドル)の技術を統合 |
| Autonomous Workforce | 業務を端から端まで自律実行するAI専門人材群。L1サービスデスクから開始し、CRM、HR、法務、財務へ拡大予定 | 自社開発 + CueIn AI、Logik.aiなどの技術 |
| AI Control Tower | 全エージェントの権限、監視、ガバナンスを一元管理する基盤 | Veza(ID管理)+ Armis(物理デバイスの可視化) |
Ottoは特筆に値します。Moveworksの買収技術を核に、Now AssistとAI Experienceを統合した対話型インターフェースです。従業員が福利厚生の変更、ハードウェアの承認、チームメンバーへのシステムアクセス付与を、ひとつの会話のなかで完結させるデモは、実際に見て印象的なものでした。MicrosoftのCopilotやSlackのAI体験も同じ「入口」のポジションを狙っていますが、ServiceNowの主張は、入口の先にガバナンスがなければ混沌の中に扉を開けるだけだ、というものです。
ライセンスモデルの大転換 — AIは追加料金ではなく標準装備へ
ユーザーやパートナーにとって、戦略ビジョンと同じくらい実務に影響するのがライセンス体系の変更です。
何が変わったのか
2025年まで、Now AssistなどのAI機能はサイドカー型のアドオンとして販売されていました。製品ごとに異なるSKUが乱立し、顧客から見て分かりにくい状態が続いていた。
2026年4月、ServiceNowはライセンス体系を3段階のティア構造に再編しました。
| ティア | 位置づけ |
|---|---|
| Foundation | 要約やデータ抽出など標準的な生成AI機能 |
| Advanced | ワークフロー実行とAIエージェントによるタスク処理 |
| Prime | L1サービスデスクなど業務全体を自律的に遂行するAI Specialist |
AI機能、AI Control Tower、Data Fabricはすべてこのティアに組み込まれました。AIはもはや買い足すものではなく、最初から入っているものです。
シートベースからハイブリッドモデルへ
従来のユーザー数課金に加え、AIの利用量に応じた消費ベースの課金が導入されています。ServiceNowはこれをアシストと呼んでおり、AIエージェントがタスクを実行するたびにトークンを消費する仕組みです。
Amit Zavery氏(President / CPO / COO)の発言が、この変化の大きさを物語っています。
"More than fifty per cent of our net-new is coming from non-seat licences."
(新規取引の50%以上がシートライセンス以外から来ている。)
固定額のシートという考え方から離れ、利用量と価値創出に基づく課金へ向かっている、と。
一方で、アウトカムベースの成果報酬型課金についてはZavery氏は明確に否定しています。「理論的には良く見えるが、現実には誰も成功させたことがない。新しいCIOが来て基準を変えたいと言ったら契約をやり直すのか?」と語り、ハイブリッドモデルが現時点での最適解だとの立場を示しました。
ユーザーとパートナーへの実務的な影響
この変更に伴い、企業は以下の4つの観点で実務的な対応を迫られます。
1. 「AI非搭載」という選択肢の消滅
Foundation以上のすべてのライセンス層に生成AI機能が標準で組み込まれるため、「当面はAIを使わずに安く済ませる」という後回しの戦略が取れなくなります。
次期更改からは、プラットフォームの設計そのものを「AIを活用すること」を大前提としてゼロベースで見直す必要があります。
2. 変動費化によるコスト予測の複雑化
アシスト(AIトークン)の消費量は、処理するタスクや対話の複雑さによってダイナミックに変動します。
そのため、これまでの「ユーザー数×単価」という分かりやすい計算式だけではなくなるため、予算策定が難化します。
3. AI FinOps体制の必須化
コストが変動費化するということは、日々の利用量を継続的に監視し、最適化する運用が求められることを意味します。どの部署が、どの業務プロセスで、どれだけのアシストを消費しているかを可視化する「AI版FinOps(クラウドコスト最適化)」のモニタリング体制準備が必要となります。
4. 契約交渉における新たな防御線の設定
従量課金制の導入に伴い、ベンダーとの契約交渉の難易度が一段上がります。
予期せぬコスト超過を防ぐため、アシストの消費上限の設定、1アシストの厳密な定義、上限超過時の追加料金の条件などを、契約締結の段階で極めて明確にしておく防御策が不可欠です。
競合の動きとServiceNowの構造的優位性
ServiceNowだけがAIのオーケストレーション層を狙っているわけではありません。
Google CloudはAgent Space、MicrosoftはAgent 365とCopilot、SalesforceはAgentforceを打ち出し、いずれもAIガバナンスと制御の中枢を主張しています。
ServiceNowの構造的な優位は、IT部門との20年にわたる関係にあります。AI導入で企業が最も気にするのはセキュリティとガバナンスであり、それはCIOとCISOの管轄領域です。ServiceNowが長年かけて築いた購買関係がそのまま活きる構図です。
Zavery氏はかつての在籍先であるGoogle Cloudに対しても、友好的ながら牽制しています。
"The control plane cannot come from people who are also prescribing the full stack, because then they'll be prescribing a stack they own most of the time."
(コントロールプレーンは、フルスタックを規定する側から来てはならない。彼らは自分が所有するスタックを押し付けることになる。)
McDermott氏もオープン性を差別化のポイントに据えています。
"Totally open is our model. You see others moving in the opposite direction. When you close your platform, in my view, that signals a lack of confidence in it."
(完全にオープンであることが我々のモデルだ。プラットフォームを閉じる者は、それに自信がないことの表れだ。)
ただし、ハイパースケーラーのレバレッジを過小評価すべきではありません。Microsoftは日常の生産性ツールに深く入り込み、Salesforceは顧客データを握り、OracleとSAPは財務・業務データを持っています。どの業務をどのレイヤーが実行するかの争いは、まだ始まったばかりです。
私たちは、今どう考え、どう動くか
この記事を読む方の多くは、日本で働く方々だと思います。
Knowledge26の発表や、この記事に目を通していただけた方は、おそらくこう思ったのではないでしょうか。
「ServiceNowが見据えている脅威は、今の日本の現場感からすると少し先を行き過ぎていないか」と。
日本のAI導入の現在地
その感覚は、データで裏付けられます。
NRI(野村総合研究所)の国際比較調査によると、AIサービスの有料版を利用しているユーザーの比率は中国65%、アメリカ39%、ドイツ32%に対し、日本は15%にとどまっています。日本企業のAI利用の多くが、従業員個人の無料アカウントによる手探りの段階にあるということです。
矢野経済研究所の2025年調査では、AIエージェントの導入率は29.7%。生成AIツール全般の64.4%と比べると半分以下です。日本の多くの企業は生成AIによるチャットベースの対話環境をようやく導入し始めた段階であり、自律的に判断して動くAIエージェントは検討を始めたばかりの領域です。
一方、海外の先行企業では何が起きているか。クラウド・セキュリティ・アライアンス(CSA)の調査データがその実態を突きつけています。
| 海外企業の実態 | 数値 |
|---|---|
| IT部門が把握していなかったAIエージェントが社内で発見された企業 | 82% |
| AIエージェント関連のセキュリティインシデントを経験した企業 | 65% |
| そのうち実際にデータ流出を伴った企業 | 61% |
| 従業員が未承認のAIツールを業務環境に持ち込んでいる割合 | 78% |
海外企業は、AIを急速に導入した結果、従業員がIT部門に無断で自律型AIエージェントを社内システムに接続するBYOA(Bring Your Own Agent)と呼ばれる事態に直面しています。CRMに未承認のエージェントが書き込み権限付きで接続され、誰の承認も経ていない自律的なアクターが顧客データを操作している。そんな状況が実際に生まれています。
ServiceNowがKeynoteで「AI Control Tower」を真っ先に語った理由は、まさにこの現実です。
乖離こそがアドバンテージになる
この話を聞いて、「日本はまだそこまで進んでいないから関係ない」と思うのは早計です。むしろ逆で、この乖離そのものが日本企業にとっての戦略的なメリットになります。
海外企業は熱狂のままにAIを現場に放ち、シャドーAIの蔓延やガバナンス崩壊を経験してから、統制の必要性を醸造してきました。
日本企業はその失敗を目の当たりにした上で、AIエージェントの本格導入に臨めます。しかも、AI Control Towerという完成された統治基盤がすでに用意されている。
海外が踏んだ地雷の位置を知り、最初から安全な手綱を握った状態でスタートできるのです。
ただし、日本には日本特有の壁もあります。IBMの調査によれば、AI導入の阻害要因として出力の正確性への懸念(45%)、社内データの不足(42%)、専門人材の不足(42%)、ROIの不透明さ(42%)が上位に並んでいます。さらに、稟議プロセスにおける責任の曖昧さや、現場の「AIに仕事を奪われるのではないか」という心理的な抵抗も根深い。技術の問題よりも、意思決定と組織文化の問題が立ちはだかっています。
このアドバンテージを最大限に生かすために、今取るべきアクションを考えてみます。
ServiceNowを導入している組織・これから導入を検討している組織へ
1. 「禁止」ではなく「安全な代替ルート」を整える
AI Control Towerが利用開始から1年間無料で提供されると発表されました。
このタイミングで最優先すべきは、自社のAI利用実態の棚卸しです。
どの部門が、何の生成AIツールを、どのデータソースに対して使っているか。
ネットワークログの分析や従業員アンケートを通じて可視化する全社調査を実施すべきです。
海外の失敗事例が教えているのは、未承認ツールの全面禁止はむしろシャドーAIを地下に潜らせて危険度を上げるという事実です。
禁止するのではなく、ServiceNowのプラットフォーム上で承認・監視されたルートを用意し、そちらのほうが便利で安全だから自然に使われる状態を作ることが本質的な対策になります。
2. ライセンス体系の変更を予算計画に織り込む
Foundation / Advanced / Primeの3ティアへの移行は、次の契約更新時に直接影響します。特にアシスト消費モデルへの移行はコスト構造を根本から変えます。パスワードリセットのような単純な処理と、複雑なシステム障害の切り分けでは消費するアシスト数が異なるため、従来の「ユーザー数×単価」では予算が読めなくなります。
海外ではすでに、部門ごとのAI分散導入によって月末の請求書で予期せぬコスト超過が発覚するケースが報告されています。
各業務プロセスでAIがどれだけ介入するかを見積もり、利用量を継続的に監視するモニタリング体制の準備が急務です。
3. 業務フローの標準化から始める
Autonomous Workforceは現時点ではL1サービスデスクから展開されていますが、今後はCRM、HR、法務、財務へと拡大する計画です。
しかし、AIは人間でもルール化できていないカオスな業務を「自律実行」することはできません。
だからこそ、まず着手すべきは自社の業務プロセスの棚卸しと標準化です。
既存のフローが属人的な暗黙知に依存している部分を洗い出し、ルールとして明文化する。そこが整って初めて、AIによる自律実行の候補が見えてきます。最も定型化されているITサポートから着手し、成功体験を他部門へ横展開するロードマップを描きましょう。
4. 組織の受け入れ態勢を技術導入より先に整える
日本企業でAI導入が停滞する最大の原因は、技術ではなく組織です。
AIエージェントが自律的に仕事を進めるようになると、
「その業務の最終責任は誰が負うのか」という問いが必ず浮上します。
システム部門か、業務部門か、経営層か。この定義が曖昧なままでは、稟議が膠着し、本番導入に踏み切れません。
加えて、AIに仕事を任せた従業員が次にどんな付加価値を生み出すべきかという問いにも向き合う必要があります。リスキリング計画の策定、AIと人間の協働ルールを定めるガイドラインの整備、そして何より「AIは仕事を奪うものではなく、自分の仕事の質を上げるもの」という認識の醸成。
人事部門を巻き込んで、技術導入の前にこれらを整えていく必要があります。
まとめ
ServiceNowがKnowledge26で見せたのは、ITSMベンダーからAI時代のオーケストレーターへの変貌の完成形ではありません。
その賭けの途中経過なのだと思います。
2030年にサブスクリプション収益300億ドルという目標を掲げるServiceNowが、その道筋をどう証明していくのか。ユーザーとパートナーにとっての問いは、この賭けに早く乗るか様子を見るかではなく、AI時代のガバナンスを自社でどう設計するかという、より切実なものでしょう。
Keynoteの会場を出たとき、ラスベガスの乾いた熱気が肌を刺しました。
ステージで語られた未来は壮大で、同時に将来の地に足のついたリスクを再認識する必要があると感じました。
この記事が、読者の皆さんにとって自社の次の一手を考えるきっかけになれば幸いです。
参考リンク
- Welcome to Agentic Business (Day 1 Mainstage Keynote) - ServiceNow Knowledge 2026
- ServiceNow Knowledge 2026 - CEO Bill McDermott was playing chess last year. Now he says ServiceNow m...
- ServiceNow Knowledge 2026 - the vendor’s second re-invention is fully underway
- Prediction: ServiceNow's platform is the one to beat - if it can get its messaging right.
- ServiceNow beats Q1 2026 guidance as AI deals accelerate (and outcome-based pricing? Zavery isn't bu...
- ServiceNow's $7.75 billion Armis acquisition - betting that security and trust, not just capability,...
- 日・米・中・独4カ国調査にみる生活者におけるAI利用の現在地 | 203X : AIで拡張する社会 | 野村総合研究所(NRI)
- 日本のAI導入状況は?現状や実際の導入事例、メリットデメリットを解説 | AI総合研究所
※ 本記事の内容は筆者個人の見解およびレポートであり、所属する組織の公式な見解や発言を代表するものではありません。
