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Kentaro Suzuki
ServiceNow Employee
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各回へのリンクが含まれる導入編についてはこちらの記事をご確認ください。

 

SECIモデル(第1回)や知識スパイラル(第2回)は知識変換の構造や拡大のプロセスを示していますが、それだけでは知識創造は起こりません。知識は「どこで」「どのようにして」生まれるのか――この問いに対して野中・竹内両氏は「場(Ba)」という概念を提示しました。

 

Baとは、知識が創造されるための共有された時間・空間・関係性の「文脈」のことです。それは単なる物理的な場所を意味するのではなく、人々が意味を共有し、相互作用を通じて新しい知識を生み出すための土壌を指します。Baがあるからこそ、知識の変換は生きたプロセスとして機能します。

両氏はBaを以下の4つに分類しています:

 

  1. 創発の場(Originating Ba):主に共同化を支える場。共感的なつながりや、感情の共有を通じて暗黙知がやりとりされる場(例:ペア作業、OJTの現場)。
  2. 対話の場(Dialoguing Ba):表出化を支える場。対話やメタファーのやりとりを通じて、暗黙知を形式知へと翻訳していく場(例:ブレインストーミング、ワークショップ)。
  3. 体系化の場(Systemizing Ba):連結化を支える場。ITツールやドキュメント管理システムなどを活用して、形式知同士を統合していく場。
  4. 実践の場(Exercising Ba):内面化を支える場。実践を通じて形式知を体得し、暗黙知として定着させていく場(例:業務シミュレーション、トレーニング)。

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これらのBaは、知識創造の各段階で必要不可欠な環境要素であり、知識の質やスピードに大きく影響します。

  1. 創発場(Originating Ba

創発場は、人と人との直接的な交流を通じて暗黙知を共有する最初のステージです。共感や信頼をベースにした対話や共同体験は、表面的な情報交換を超え、相手の思考や価値観を深く理解するきっかけを与えます。これにより、チーム内での心理的安全性が高まり、新しいアイデアが自然に生まれやすくなります。スピード面では、形式化を経ずに直感的に知識を伝え合えるため迅速な気づきが得られ、質の面では共感を基盤とした理解が誤解や齟齬を減らし、知識創造の精度を高める役割を果たします。

 

  1. 対話場(Dialoguing Ba

対話場は、異なる背景や専門性を持つ人々が言語を通じて知識を共有し、新しい概念を創り出す場です。議論やブレーンストーミングにより、暗黙知が形式知として明確化され、誰もが理解できる形に変換されます。スピード面では、多様な視点の融合により問題解決や意思決定が迅速化し、質の面では相互補完的なアイデアが生まれやすく、革新的な解決策や理論的に裏付けられた知識が得られます。特にオンライン会議やナレッジ共有の場としても有効で、組織全体の知識基盤を強化します。

 

  1. システム化場(Systemizing Ba

システム化場は、形式知を整理・統合し、マニュアルやデータベースなどの体系化された知識資産として蓄積する場です。ここでは、個人の知見が組織的に利用可能な形へと変換され、再利用性や拡張性が飛躍的に高まります。スピード面では、知識が検索・参照可能な形で共有されるため、新しいプロジェクトや課題への対応が効率化されます。質の面では、標準化や検証を経た知識が提供されるため、信頼性の高い判断や行動につながります。結果として、組織全体の学習スピードと実行精度が向上します。

 

  1. 実践場(Exercising Ba

実践場は、形式知を実際の行動や経験を通じて暗黙知へと再び変換する場です。トレーニングやOJT、実際のプロジェクトでの挑戦などが典型的な形態であり、知識が「頭で理解するもの」から「体得するもの」へと変化します。スピード面では、学んだ知識をすぐに実践に移せることで、個人や組織の成長が加速します。質の面では、経験を通じた試行錯誤が知識をより深く定着させ、単なる理論を実践知へと昇華させます。このプロセスが再び新しい暗黙知を生み出し、知識スパイラルを加速させる源泉となります。

 

現代の組織においては、物理的なオフィスに限らず、オンラインのコラボレーションスペースや、心理的安全性のある文化的空間などもBaとして機能します。重要なのは、形式的な会議室やツールの有無ではなく、知識が自然に流通し、意味が共創される状態をつくることなのです。

Baは目に見えにくい概念ですが、知識創造の“場づくり”に意識的な工夫を加えることが、組織の知的生産性を飛躍的に高める鍵となります。

 

Baが存在し、SECIモデルを理解し、知識スパイラルを起こすことで知識創造は進みます。それをさらに加速させる燃料というべき知識資源について次回投稿(第4回)では解説します。