神奈川県藤沢市は、市民による行政サービスの申請や施設予約などがワンストップでできるデジタルプラットフォームの構築を進めています。その取り組みの一つとして、行政サービスに関する問い合わせ先を一元化し、FAQ、チャット、オペレーター対応など、マルチチャネルで対応するコンタクトセンタープラットフォームの構築を計画。その基盤としてServiceNowのCustomer Service Management (CSM)を採用しました。ServiceNowはローコード開発に対応しているため、導入からわずか6カ月でプラットフォームを構築。稼働後も市民からの電話の問い合わせが月間5000件も減少するなど、様々な業務削減効果が表れています。
市民向けサービスの改善と、職員の業務効率化を両立させる
約44万4000人もの市民が暮らす藤沢市(2024年9月1日時点)。相当な人口規模のため、藤沢市役所による市民へのサービス対応も多忙を極めていました。「市民の皆さんから寄せられる電話は、毎月約2万~3万件。限られた職員数では、問い合わせに答えるだけでも手いっぱいですし、頼んだことが処理されたかどうかを確認したりするのもひと苦労でした」と語るのは藤沢市 企画政策部 デジタル推進室 主任の宇田川 晟氏です。
1日に何万件もの電話が届くと、どうしても待たされる電話の件数が増えてしまいます。市民の皆さんの大切な時間を無駄にしないためにも、改善が不可欠だと考えました。
また、市役所には毎日多数の市民が訪れ、様々な申請や手続きなどを行います。出産や育児関連の申請・手続きだけでも、担当する部課がいくつかに分かれ、市民はそれぞれの部署の窓口で氏名や住所などの情報を、イチから申込用紙に記入しなければなりません。そんな市民へのサービスの改善と、職員の業務効率化を同時に実現することを目指し、藤沢市はデジタルプラットフォームの導入を決定しました。
「どこでも」「ピッタリ」「かんたん」の3つのバリューを追求する
現在、藤沢市が進めているのは、市民と行政のタッチポイントを1つにするデジタルプラットフォームの構築です。同市はこれを「シン・シヤクショプラットフォーム」と呼んでいます。具体的には、「ふじまど」と名付けた市民向けのポータルサイトを開設。このサイトを通じて、市役所へのあらゆる問い合わせや、各種申請・手続きなどの申し込みがワンストップで行えるようにすることを目指しています。目標とするのは、「どこでも」(市役所に行かなくて済む)、「ピッタリ」(一人ひとりのニーズにあった)、「かんたん」(一度で手続きが済む)という3つのバリューを満たす行政サービスの実現です。
21年末には、「シン・シヤクショプラットフォーム」構想の第1弾としてコンタクトセンタープラットフォームの導入プロジェクトが始動。その基盤としてServiceNowのCSMを採用しました。
「CSMには、FAQやチャット、オペレーターによる音声対応など、様々なコミュニケーション方法に対応できるツールが用意されています。市民の皆さんが、まずはポータル上でFAQを調べ、求める答えがないときはチャットで問い合わせ、それでも問題が解決しなければオペレーターに尋ねるといったように、同じポータル上で効率よくコミュニケーションができる点に魅力を感じました」と、宇田川氏は選定理由を説明しました。
導入からわずか半年でコンタクトセンター業務を開始
藤沢市は23年3月にServiceNowの導入を決定。わずか半年後の23年10月にCSMを基盤とするコンタクトセンター業務をスタートさせています。短期間でリリースにこぎ着けたのは、ServiceNowがアジャイル開発に適したローコード設計であることに加え、ポータルの作成やワークフロー設定のためのパーツなどが揃っていたからです。
「いろいろなシステムの開発プロジェクトに携わってきましたが、これほど短期間でリリースできたシステムは他にありません。出来上がったプロトタイプを各部課の職員に実際に触ってもらい、要望を吸い上げては改善を図るという作業を高速で回しながら、短いスケジュールで完成度の高いプラットフォームを作り上げました」(宇田川氏)
職員が応対する市民からの問い合わせ電話が月間5000件も減少
すでに導入から1年以上が経過していますが、藤沢市の職員たちはコンタクトセンタープラットフォームの導入効果を強く実感しているようです。
「何より、プラットフォーム経由の問い合わせが増えたことで、電話対応の件数が減ったことに大きな効果を感じているようです。実際、市役所に寄せられる電話のうち、受け付けたオペレーターから各部課の担当者に回される本数は、プラットフォームの導入前に比べて毎月5000件ほど減っています。1カ月当たりの電話が約2万~3万件なので、2割ほど減っている計算です」(宇田川氏)
一方、コンタクトセンタープラットフォームをリリースした23年10月以来、市民がポータル上でFAQを検索した件数は半年で約3万5000件に達しました。FAQで問い合わせを自己解決できるようになったことも、電話が減った大きな要因の一つであることは間違いなさそうです。
また、リリース当初、約2000件だったFAQの項目数は、その後、約3000件まで増加しました。「FAQを充実させれば、職員の負担がますます減り、市民にとっても自己解決の機会が広がるという“好循環”が認識されるようになり、職員が積極的に増やそうと努力した結果だと思います」と宇田川氏は評価します。
チャットによる回答を生成AIで自動化することも検討
このほか、藤沢市はServiceNowのダッシュボード機能を使って、市民から寄せられる問い合わせの内容や、FAQに対する評価、担当課別の対応時間などの分析も行っています。分析結果に基づいてFAQを見直したり、対応の改善を促したりすることが目的です。これにより、サービス品質や業務効率を継続的にブラッシュアップしていくことを目指しています。
「今後も、生成AIを使ってチャットによる回答を自動化するなど、継続的なサービス改善を図っていきたいと思います」と宇田川氏は構想を明かします。
コンタクトセンター業務以外にプラットフォームの活用を広げる取り組みも、すでに始まっています。
現在進行しているのは、公民館やスポーツ施設などの予約システムをデジタルプラットフォームに取り込み、市民ポータルサイト「ふじまど」で予約できるようにする仕組みの構築です。
「従来、公民館とスポーツ施設の予約システムはバラバラで、予約するには別々のID入力が必要でした。それが『ふじまど』にアクセスすれば、1つのIDでできるようになります。将来的には、あらゆる申請・手続きが同じIDで行えるようになる仕組みを目指しています」(宇田川氏)
デジタル人材育成のため、ServiceNowと連携協定を締結
そのためのステップとして、藤沢市は24年10月、「ふじさわID」の発行を開始しました。このIDは、施設予約のほか、オンラインによる各種行政手続きの申し込みに対応。施設利用料などの支払いも、クレジットカードや2次元コード決済を使って、オンライン上でできるようになる予定です。
今後、デジタルプラットフォーム上であらゆる申請・手続きができるようにするためには、さらなるアプリやシステムの開発が必要となります。その開発費用を抑えつつ、求められるサービスを速やかにリリースするには、開発の内製化が不可欠です。
実は、藤沢市が「シン・シヤクショプラットフォーム」の基盤としてServiceNowを選んだ理由はここにもあります。ローコード開発に対応するServiceNowは、エンジニアでなくても一定の知識があればアプリやシステムを開発できるので、内製化に適しているのです。実際、藤沢市でDXを担当するデジタル推進室では、職員16人のうち5人がServiceNowによる開発のスキルを習得しており、各部課の要請に応じてアプリやシステムの開発を行っています。
このほか、藤沢市はServiceNowとの官民共同でデジタル人材の育成に取り組む包括連携協定を締結しており、市民にデジタル人材として活躍してもらう機会の提供にも貢献しています。
宇田川氏は、「より良い行政サービスの追求だけでなく、地域活性化のためにも、今後ServiceNowとの連携をさらに深めていきたいと思っています」と抱負を語りました。