顧客エンゲージメントの強化で世界の制御計測マーケットをリードする
計測、制御、情報技術を軸に最先端ソリューションを提供
横河電機株式会社は、計測、制御、情報の技術を軸とした最先端のソリューションを提供する企業として1915 年の創立以来、日本の計測および制御技術の発展をリードしてきました。
2018 年には、制御事業を包括する新ブランドとして「OpreX」を立ち上げ、顧客のバリューチェーンや設備のライフサイクル全体の最適化を支援する取り組みを進めています。効率的で安全な操業を実現する機器やシステムはもちろんのこと、納入後の運用・保守サービスに関するソリューション、さらにはサプライチェーンの最適化や経営資源配分といったビジネスコンサルティングも提供しています。
OpreX ブランドで展開する製品やサービスにより、「製造現場のデジタルトランスフォーメーション(DX)を推進することを目指しています」と語るのは、同社 IA システム&サービス事業本部 ライフサイクルサービス事業部 ソリューション開発部の野田孝司氏です。その一環として、同社が提供するのがリモートサービスソリューションの「VPSRemote」です。
VPSRemote は、同社の顧客のプラント内にあるシステムに外部から接続したうえで、システムの稼働状態やパフォーマンスを遠隔監視するサービスです。具体的には、顧客サイトに設置するリモート用機器と、安全に構築されたセンターシステム、そしてそれらを接続する安全なネットワーク通信環境(SSL-VPN)で構成されています。異常発生時には横河電機の技術者がシステムにリモート接続して障害の原因調査を進めることができるため、効率的な保守と復旧までの時間短縮が可能です。
「当部門の役割は、製品をご購入いただいたお客様に、そのシステムをできるだけ長く安心して使ってもらうようにすること。VPSRemote でリモートから常にシステムを監視することで、サポート体制を強化しています」(野田氏)
顧客からの問い合わせを統合的に管理し対処する仕組みの構築を目指す
しかし、横河電機においては、顧客ロイヤリティ改善の点において現状のサポート体制にはまだ課題があったといいます。従来から、VPSRemote の情報を顧客に提供するポータルサイトは存在していましたが、監視対象となる機器の情報や監視データは確認できても、そこで顧客からの問い合わせを統合的に管理できる仕組みは存在していませんでした。
「例えば、これまではお客様からサービスのアカウント発行などサービスに関する依頼や問い合わせがあった際、窓口の当社の担当者にメールか電話をして受け付けを行っていました。こうした仕組みを高度化し、一元的に受け付けた問い合わせに対して効率的なワークフローで処理するともに、お客様側が自分の問い合わせへの受け付け・対応状況を自身で確認できるようにしたいと考えました」(野田氏)
これは顧客ロイヤリティ向上においても重要な観点です。さらに野田氏は、「目指したのは、お客様側でサービスに関する質問や不明点があった際、それをすぐに自己解決できるような仕組みをつくることです。散在する情報を1 箇所に集め、FAQの掲載などお客様にとって利便性の高い一元化されたポータルを構築したいと考えていました」と野田氏は話します。
さらに、グローバルに事業を展開する横河電機では、システムの提供に当たり、適切なサービスマネジメントを実施できているかを主に海外の顧客企業から問われることが増えてきたといいます。こうした事情もカスタマーサービスのシステム化の後押しとなりました。
顧客へのサービスレベルを改善して維持し続けるには、横河電機内部の業務オペレーションの効率化も必要です。しかし、これまでは問い合わせを起票するチケット管理システムも契約情報を管理するシステムもそれぞれ個別に存在しており、そのような状況では抜本的な効率化は難しい状況でした。
「例えばお客様から問い合わせがあると、その内容をチケット管理システムに転記し、そこから現在の契約を確認するために契約管理システムを別途確認、その上で問い合わせ対象のシステム構成やアカウントの登録状況を管理ポータルで調べ、回答を用意するといった状態でした。問い合わせに対応するための仕組みが煩雑化していました」(野田氏)
ServiceNow 導入前の課題
- 顧客の問い合わせを一元化して対応できる、利便性の高いポータルの構築
- 顧客自身で不明点を迅速に自己解決できる仕組みの構築
- 問い合わせ対応に必要な情報が複数のシステムに分断化され、対応が煩雑化していた現状の刷新
対顧客にも社内プロセスにも適用できるサービスマネジメントの仕組みを検討
こうして横河電機では新たなシステムの導入に向けた検討を開始しました。顧客対応の品質向上には、まずは社内のワークフローを適正化することが欠かせないため、サービスマネジメントの観点から確立されたフレームワークを持つシステムを探しました。また、ServiceNow は顧客とのエンドツーエンドのプロセスを単一のプラットフォームで提供することができる点もメリットであると感じました。
その中で同社は、ITIL 準拠のサービスマネジメント製品を調べたところ、ガートナーの調査でServiceNow が高く評価されているのが目に止まりました。そこで、付き合いのあるシステムインテグレーターにも相談したところ、ServiceNowで顧客対応の課題が解決できそうだという感触を得たといいます。ちょうど同時期に、同社グループ内でグローバル展開する社内向けヘルプデスクでもServiceNow を展開する予定になっていたことも、採用を後押ししました。
さらに、ServiceNow がアジャイル開発に最適なSaaS プラットフォームであったことも決め手となりました。「当部署の本業は、VPSRemote を構築し維持することです。そのため、支援システムそのものに対する管理工数はできるだけ最小限に抑えたいと考え、オンプレミスでシステムを維持するよりSaaS を選択することにしました」と野田氏は話します。
「標準機能」対「作り込み」の葛藤。文化的背景が異なることによる苦労も
導入は2018 年より準備を始めました。さまざまな要件を検討した上で、社内プロセスでの利用を開始し、実際に利用者からの問い合わせを受け付けるようになったのは2020 年のことでした。
導入時には、ServiceNow の多様なライセンス体系を理解し、費用を抑えた運用ができるよう検討しました。ただし、システム構築において自社での作り込みが発生すると、半期に一度訪れるバージョンアップ時にその部分を都度検証しなくてはなりません。
その手間を避けるには標準機能で構築するのが最適ですが、「海外発の製品ですので、やはり文化的背景が国内の製品と異なります。どの部分に標準機能を使い、どの部分を当社のやり方に合わせるか、そのバランスについては慎重に議論しました」と、野田氏は当時を振り返ります。
海外ベンダーの製品を日本の企業内に導入する際に、さまざまな作り込みを行った結果としてバージョンアップ時に苦労している様子は野田氏もこれまで数多く目にしてきました。そのため、同社ではできるだけ操作性の感覚的な違いがあっても標準機能を受け入れて使うことを心がけたといいます。
もっとも、これまでのやり方を大きく変えようとすれば反発は大きいため、その調整は時間をかけて行ってきました。最終的には、ServiceNow の内部にさまざまな独自テーブルは作成したものの、インシデント管理やナレッジベースなど大部分は新たに作り込むこともなく、今回目標としていた問い合わせ管理の仕組みを構築することができました。
ServiceNow を評価したポイント
- ガートナーによる評価が高いITIL 準拠プラットフォーム
- 顧客とのエンドツーエンドのプロセスを一つのプラットフォームで提供が可能
- 維持管理の負担を解消できるSaaSのプラットフォーム
問い合わせ受け付けから担当者アサインを自動化
ServiceNow が導入された現在では、顧客からの問い合わせは指定のメールアドレス宛に送信されたあとServiceNow に自動的に取り込まれ、チケットの起票や適切な担当者へのアサインは自動的に行われます。
「以前は、お客様からの問い合わせは当社の窓口の担当者が受け付けて連携してもらうことがほとんどでしたが、今ではお客様には指定の問い合わせ先だけを案内すればよくなりました。また受け付けたあとの処理が自動化されることで、問い合わせの初動対応のスピードも確実に変わっているはずです」と野田氏は顧客側のメリットを語ります。
なお、問い合わせを行った利用者には、受け付けられたことを知らせる通知が自動送信されるようになっています。これまでは、登録作業が済んだ段階で受け付けたことを知らせるメールが送信されていたため、休日や夜間には問い合わせが届いているかどうかを利用者は確認できませんでした。
「海外からの利用者に対しては、時差もあることから応答が遅れがちでしたが、少なくとも問い合わせを受け付けたことに対しては即答できるようになりますので、お客様側の安心感も変わってくるはずです」と、野田氏は語ります。
もちろん、ServiceNow の導入プロジェクトはまだ道半ばであり、間もなくリリース予定であるWeb ポータルが稼働した後はより効果も見込めるようになると野田氏は期待します。メールによる問い合わせとポータル上からの問い合わせはシステム上共通化されているため、どちらから問い合わせがあった場合でも受け付け処理は自動化されます。
さらに問い合わせ内容をFAQ としてナレッジベース化してポータル上で公開することも目指しており、今後はさらに顧客にとって使いやすく情報が豊富なシステムにしていくとしています。
年間200時間相当の業務効率化につながる
一方、社内オペレーションに対しても明確な効果が現れています。
「問い合わせ内容をチケット管理システムに手動で登録し、内容に応じて担当者をアサインしてメール転送を行っていた作業が不要になったことは、業務効率化に大きく寄与しています。これまでは毎月100件程度の問い合わせに対して皆が他の業務の合間に対応を行っていました。1 つひとつの業務としては些細なものですが、専任の担当者がいたわけではなかったためにこの業務に対するストレスは大きく、ServiceNow で解消されたことは大きな効果であると感じます」(野田氏)
その定量効果については、例えばメール1 件につきチケット管理システムへの入力作業や担当者へのアサイン作業に10分かかっていたとすると、「年に換算すると約200 時間分の作業が削減されたことになります」と、野田氏はその効果を強調します。
また、アサインされた担当者側も、これまでは対応したメールの内容をその都度システムに転記していましたが、今ではServiceNow の画面に直接回答を入力できることから、ここでも転記作業の負荷がすべて削減されたことになります。
ServiceNow 導入の効果
- 問い合わせ受け付けからの処理を一部自動化し、顧客対応業務の迅速化に貢献
- 問い合わせ受け付けを知らせるメールを自動配信し、顧客に安心感を提供
- 年間で200 時間相当の業務効率化が可能に
オペレーションの自動化を追求し顧客へのサービス品質向上を目指す
ServiceNowによる自動化を適用したのは、VPSRemote のサービスのうち、問い合わせ対応の部分です。今後は、VPSRemoteのインフラ部分にもServiceNow を適用して自動化する領域を増やすことも検討しているといいます。具体的にはITOM(IT Operations Management)を採用したインフラ運用におけるゼロタッチオペレーションの実現です。
「インフラの管理をより動的に実施し、障害が発生した際には自動復旧できるような仕組みを構築できることが理想的です。障害発生時にはエンジニアが情報を手動で集めるなどして対応していると、特に休日や夜間はコストがかさみますから。自動で処理できるようになれば、エンジニアの負荷も軽減できます」と野田氏は話します。
「ServiceNow の導入にあたっては、業務やワークフローをシステムに合わせるよう、ある程度割り切ることも必要だと感じました。結果として導入後は問い合わせ対応という業務部分の負担は大きく削減されました。なお私が所属する事業部ではVPSRemote 以外にもいくつかの顧客向けサービスを運用しているので、それらにもServiceNow による自動化を適用すれば大きな効果が得られるだろうと考えています」(野田氏)