人々が生命保険や健康保険、資産管理、金融商品やサービスへのアクセスにデジタルチャネルを利用するこの時代、保険業界は大きな変革の渦中にあります。 デジタル化を通じて保険業界は、より健康で手厚く保護された社会の保証を拡大できる大きな可能性を秘めていますが、スピードアップが急務です。ある調査によると、世界の保険会社の上位 100 社のうち「バリューチェーンを完全にデジタル化した」割合は 25% にも満たないのです。
アジア全域での独立系上場生命保険グループとしては最大の AIA 社は、この流れを乗りこなしてデジタル化を次の成長の波の基盤にしようとしています。 企業戦略として、事業運営と数千万人の顧客向けユーザーエクスペリエンスをデジタル化し、デリバリスピードを向上して、ビジネスの成長を加速化させるという目標を達成することを目指しています。
AIA 社のグループ IT オペレーションズ事業部長兼ゼネラルマネージャーの Marcel Malan 氏は、同社での 5 年間の在任期間の大半をこの目標の実現のために捧げてきました。 AIA 社の戦略は、テクノロジー、デジタル、分析 (TDA) という 3 点からなるプログラムです。この言葉は同社がデジタライゼーション、ツール、データ分析、AI の採用をクラウドインフラストラクチャの最新化を通してどのように推進しているかを表しています。 この戦略には、アジリティの向上からサイバーセキュリティの強化までを対象とする 470 の個別イニシアチブが含まれます。 このすべてを下支えしているのが同社の新規構築されたクラウドアーキテクチャです。これは Malan 氏いわく、TDA キャンペーン全体の前提条件です。
「プライベートデータセンターを運営している従来の環境では、ハードウェアの発注、実装、構築をしなければならないという実際の課題に直面します。 当社の迅速なクラウド導入は、ビジネスのためによりアジャイルで安全な効率に優れたプラットフォームを接続して構築するための基盤となっています」
つまり、AIA 社はオンプレミスサーバーを運用するための基礎的部分を思い煩うのではなく、クラウドへの移行によってデータ処理の規模を大幅に拡大することができたということです。 Malan 氏が指摘するのは最近の同社の運用要件の変更で、これによって 17 のプラットフォームで 1 日に 12 億件のレコードを処理する要求が 400% 増加しました。もしクラウド移行前であれば、Malan 氏のチームは対応に苦慮したであろう大幅増です。 Malan 氏によればこうした活用が同社にとって「数百万ドル」のコスト削減につながったといいます。
最低限の機能を設定
AIA 社のパブリッククラウドへの移行というタスクは Malan 氏によれば 2021 年には 70% 以上完了していましたが、同社にいくつか顕著なメリットをもたらしました。 バックオフィス業務の広範な自動化が可能になり、Malan 氏によれば今や 60% 近くが人の手を介さずに処理されています。
人材の移動も活発になり、特にスタッフトレーニングとスキルアップが盛んになりました。 AIA 社は 2020 年 1 月に社内の人材向けの「クラウドアカデミー」を設立しました。 以来 600 人の技術職従業員が登録し、うち 200 人が「卒業生」になっています。 これによって、自社に価値を提供しようという熱意と意欲に満ちた志の高い人材の基盤が形成されました。
「当社のサクセスストーリーの大部分は、クラウドアカデミーを従業員のトレーニングだけでなく、AIA の戦略的目標を達成するための能力開発エクスペリエンスを提供するためにも活用できていることに起因しています」と Malan 氏は述べています。
同社はクラウド自動化を使用して、開発者と社内 IT スタッフがソリューションの構成要素をサービスのセルフサービスカタログから集められるようにしました。 このシステムの基盤をなしているのが、ServiceNow IT Service Management (ITSM) および IT Operations Management (ITOM) プラットフォームです。
デジタル従業員エクスペリエンス
AIA 社の従業員はアジア太平洋地域の 18 の市場に 23,000 名以上おり、休暇の予約のような単純なルーティン作業から予算計画策定のような複雑な業務までを日常業務として遂行する必要がありますが、今やこれらをデジタルチャネルで実行できるようになっています。 こうした種類のタスクをシームレスで直観的な方法で、任意のデバイスからアクセスして処理できるということが TDA プログラムの特質です。
Malan 氏が「ポーカーの手持ちのチップ」と表現する、この手間がかからず摩擦のないエクスペリエンスがスタッフのコラボレーションにまで拡張され、質の高い従業員エクスペリエンスの基礎となっています。またこれは、データ分析会社 Gallup の Exceptional Workplace Award の授賞理由の 1 つでもあります。 従業員のウェルビーイング (健康と幸福)、効果的な社内コミュニケーション、質の高いリーダーシップによって、AIA 社は 2022 年に初めて同賞受賞の 41 社の 1 社に選ばれました。
「当社のリーダー層は、従業員と彼らがもたらす価値の重要性を重視し続けています」と Malan 氏は語ります。 「従業員が適切なツールにアクセスして成果をもたらすことができるデジタル環境を創出することが私たちにとって主要な重点分野です」
連動する数百万の小さな部品
Malan 氏にとって最大の課題のひとつが、さまざまな言語、文化、政治制度が存在する広大な地域の 4000 万件を超える個人保険契約と 1700 万人の団体契約会員に対し、統一されたデジタルエクスペリエンスを提供することです。 この断片的な背景のもと、先進的な組織は可能な部分を簡素化して一元化しながら、各地域のチームには現地の状況に合わせるための余地を十分に与える必要があります。
Malan 氏が特に強調するのは、規制、サイバーセキュリティの状況、人材パイプラインのばらつきです。そのすべてがコロナ禍で混迷状態になりました。 パンデミックはさまざまな苦難を引き起こしましたが、Malan 氏によれば負の危機において組織を支えるリーダーシップの役割を明確にもしたと言います。 「どうすれば従業員の精神面での健康を維持しながらトランスフォーメーションを順調に進めることができるでしょうか?」と Malan 氏は推測します。 「それは結局のところ、人々が健康で幸せに長生きできるように支援するという当社の目的を推進する卓越したリーダーシップに行きつくのです」
従業員をお客様のような気持ちにさせる
Malan 氏は、ITSM と ITOM ソリューションが、テクノロジーサービスと運用をシングルクラウドプラットフォーム上で同期させる基盤となったと言います。これにより、Malan 氏とチームは傑出したテクノロジーエクスペリエンスと費用対効果の優れたサービスを達成し、自動化で効率を向上できるようになりました。 AIA 社では、Malan 氏が入社する前にすでに IT 部門と社内の他の部門との間のインターフェイスを ITSM を使用して構築していたため、ITOM を活用してトランスフォーメーションの次のフェーズを開始するのに適した環境にありました。 このフェーズでは必然的に、AIA 社のクラウド、自動化、分析の各種サービスプロバイダーを、同社の LOB (基幹業務) に接続され、単一の結合された使いやすいワークフローに統合することが伴いました。
「包括的なデジタライゼーションの見地から、サービス管理ツールをどのように社内に組み入れられるかを検討する必要がありました」と Malan 氏は語ります。 「ServiceNow を従業員がこうしたツールにアクセスするための主な窓口とすることで、従業員がお客様のような感覚を味わえるようにするために重要な役割を果たしました」
従業員がトランスフォーメーションの取り組みに参加していると感じられるようにすることは、AIA 社のデジタライゼーションのイニシアチブを社内外に向け幅広く成功させるための鍵です。 「ビジネス部門からは、変革を採用し推進する上で多大な支援を得ました」と Malan 氏は語ります。 これが、今後 100 年間にも耐えうる会社になるための、同社のさらなる進歩を加速させていくのです。