横浜市は人口377万人を誇る日本最大の政令指定都市*。市民向けの行政サービスも膨大な量に上ります。市民にとって便利で無駄な時間を取らないサービスを提供し、一方で職員の事務処理を効率化するため、横浜市は行政サービスをデジタル化する「横浜DX戦略」を始動させました。この戦略を支えるデジタル基盤の一つとして、横浜市が導入したのがServiceNowです。
例えば、市の財政局は、予算案編成にServiceNowを活用。手作業の量が減り、膨大な確認作業の効率化も実現しました。さらに、地域子育て支援拠点の予約や入退館手続きなどの仕組みにもServiceNowを採り入れ、市民の利便性向上を図っています。多方面にわたる「横浜DX戦略」の取り組み状況に迫りました。
*https://www.soumu.go.jp/main_sosiki/jichi_gyousei/bunken/shitei_toshi-ichiran.html
横浜市民の皆さんに、大切な「時間」をお返ししたい
多くの市民に、質の高い行政サービスを提供するにはどうすれば良いか? また、サービスを提供する職員の業務負荷をどう軽減するか? この2つの課題に対処するため、横浜市は2022年に「横浜DX戦略」を始動させました。
「市民の皆さんに大切な『時間』をお返しすること。職員の事務を効率化して生み出した時間で必要な人に温もりのあるサービスを提供すること。この2つが『横浜DX戦略』の大きな目的です」と語るのは、横浜市 最高情報統括責任者(CIO)補佐監の福田次郎氏です。
市民にとって使いやすく、手間のかからないサービスをデザインし、手続きに費やしていた“無駄な時間”をなくしたい。その一方で、職員の業務も抜本的に見直し、効率の良いプロセスを再構築したい。そんな考えの下、「デジタル×デザイン」をコンセプトの中核に据えているのが「横浜DX戦略」のユニークな点です。
「コンセプトを具現化するためには、多様な業務に対応して、柔軟に組み替えられるワークフロー機能を備えたデジタルプラットフォームの導入が不可欠でした」と福田氏は語ります。
表計算ソフトで行っていた予算集計をServiceNowで効率化
「横浜DX戦略」の1つとして、市の財政局が取り組んだのが予算編成業務の効率化です。「以前のシステムは、各部局から上がってくる表計算ソフトのデータをまとめ上げてから投入する仕組みだったので、システムに入れるまでの手作業が多く、必ずしも効率的とは言えませんでした」と語るのは、横浜市財政局の市川 緑氏です。
「表計算ソフトなので入力ミスはありますし、何度も取りまとめているうちに、計算ミスや抜け漏れが発生することもあります。そもそも、取りまとめる作業自体が膨大な時間を費やすので、何とか効率化したいと考えていました」と市川氏は振り返ります。
この問題を解決するため、財政局は予算・財務情報管理システムを刷新し、24年度予算編成業務より部分的に稼働させてきました。その基盤として採用したのが柔軟なデジタルワークフロー機能を備えたServiceNowのStrategic Portfolio Management (SPM)です。
SPMを導入した結果、各事業のデータがツリー化され、事業の現場が予算の見積もりを入力すると、施策ごとや、政策ごとの予算額をシステム上で集計することが可能になりました。転記作業の削減等が実現し、業務の効率化を進めながら予算案を取りまとめられるようになりました。「手作業が減った結果、膨大な集計結果の確認作業まで効率化が図られたことも大きな効果です」と市川氏は評価します。
子育て支援施設のシステムも全面刷新
このほか横浜市は、地域子育て支援拠点のシステムもServiceNowのCustomer Service Management (CSM)で新システムに全面刷新しています。
地域子育て支援拠点とは、未就学児や、その親などを利用者とする子育て支援施設です。子どもたちが遊ぶ広場があり、子育てに関する情報発信や相談、アドバイスの窓口、育児支援人材育成の場、子育てをしている人々のネットワークの場としても機能しています。
さらに横浜市は、子どもの預かり合いを支援する「子育てサポートシステム」を運営しています。
システム刷新のきっかけは、市内に18カ所ある地域子育て支援拠点の入退館手続きをもっと便利にしたいという課題でした。「かつては各拠点にスタンドアロン型の『受付システム』を置き、紙の入館証に印刷されたバーコードを読み取ると入館ができる仕組みでした。しかし、開館時間内に現地に行かないと各種プログラムの予約もできないといった課題があったのです」と振り返るのは、横浜市こども青少年局の東 明徳氏です。
スマートフォンを使って入退館がスムーズに
「子育てサポートシステム」でも、アナログな運用体制に不満の声が少なくなかったと言います。例えば、子どもを預かった会員は活動報告書を提出することになっていましたが、手書きで記入し、1カ月ごとにまとめて地域子育て支援拠点に提出するといった手間がありました。「そのため、2つのシステムを中心に地域子育て支援拠点のシステムを全面刷新することにしたのです」と東氏は経緯を説明します。
ServiceNowのCSMを選定したのは、スマートフォンを使って、いつでもどこでも各種プログラムの予約ができることや、2次元バーコードをかざすだけで入館できるという利便性を評価したからでした。「紙の入館証と違って、スマホなら紛失する心配は少ないですし、イベントなどの情報も拠点に行かなくても受け取ることができます。手間がかかっていた預かり合いの活動報告も、スマホに入力して送信するだけになったので、『とても楽になった』と評判です」(東氏)。
アジャイル開発に適しているので、リリース後のシステム改修も容易
予算・財務情報管理システムの刷新に関わった市川氏と、地域子育て支援拠点システムの構築に携わった東氏は、どちらもServiceNowの開発の柔軟性についても高く評価しています。
ローコード開発に対応するServiceNowは、ユーザーの意見を反映しながら、随時修正や改良を加えていくアジャイル開発に適しています。そのため、職員や市民に使い勝手の良いシステムとして作り込みながら、短期間でリリースできるのが大きな特徴です。
実際、地域子育て支援拠点システムは、23年8月に開発をスタートし、わずか8カ月後の24年4月にはサービスを開始しました。
しかも、「ユーザーである各拠点の運営法人に途中で何度もデモを試してもらい、いろいろな修正を加えたにもかかわらず、短期間でリリースすることができました」と東氏は振り返ります。
アジャイルに機能を追加・修正できるServiceNowなら、リリース後のシステム改修も容易です。財政局はその特性を生かし、刷新して間もない予算・財務情報管理システムに事業の評価機能を追加する開発を進めています。
「事業評価は、各事業を客観的指標に基づいて評価し、現年度の事業運営や次年度以降の予算編成を進める上で重要な取り組みです。前年度実績を基に評価し、その評価結果を次年度予算の要求画面に表示させ、PDCAを効果的に回せるような機能を予定しています。このように、既存の仕組みに新しい機能を比較的簡単に追加できるのも、ServiceNowの優れた点だと思います」と市川氏は語ります。
高い安定性もServiceNow選定の決め手に
「横浜DX戦略」の推進役である福田氏も、ServiceNowがアジャイル開発に適している点に期待しているようです。
「市民の皆さんの行政サービスに対するニーズはどんどん様変わりしています。新たなニーズにスピーディに対応していくためには、ローコード開発に対応するServiceNowのようなプラットフォームが適していると思います」(福田氏)
377万人もの市民が利用するシステムの基盤は、同時大量のアクセスでも問題なく処理できる安定性の高さも必須です。その点、「ServiceNowは高い安定性に定評があることも、選定評価の一つになりました」と福田氏は明かします。
横浜市は、業務効率改善のため、引き続き、部局間などを超えた「業務の自動化」を推進していく方針です。デジタルワークフロー機能を備えたServiceNowは、そのための基盤としても活用できそうです。
福田氏は、「これからも、市民の皆さんと職員の『時間』を生み出すため、DXを積極的に推進していきます」と抱負を語りました。