2025年6月に創立70周年を迎える総合建設コンサルタントのエイト日本技術開発(以下、EJEC)は、社内システムや業務が部門や担当ごとに分断していたことで、データをビジネス上の有意な情報に転換するために多大な労力を費やしているという課題を抱えていました。この現状を刷新するために、同社はServiceNowのITSMとHRSDを導入し、従業員の生産性やエンゲージメントを向上する新たなワークフローの基盤を確立しました。
Excel主体の“自社流”で行われていた業務プロセスから脱却
公共インフラ事業における計画策定から調査、測量、設計、マネジメントまで実践する総合建設コンサルタントの技術士/専門家集団であるEJEC。1955年の創立以来、安全と安心を担う社会的責任企業として約70年にわたる実績を重ね、地球環境や国土の保全、地域のインフラ整備に優れた技術を提供し続けてきました。
しかし、自然災害に向けた国土強靭化やインフラ施設の老朽化への対応、脱炭素化社会の実現など、解決すべき社会インフラの課題はまだまだ山積しています。そうした社会の要請に応えるリーディングカンパニーとして確固としたポジションを築くべく、EJECは2030年を見据えた長期ビジョンに基づく変革を推進しています。
EJEC 総合企画本部 DX推進室 室長の藤田亮一氏は、「これまで強みとしてきた当社独自のDNAを継承・活用しつつ、人材不足やサイバー攻撃など経営リスクへの対応を前提としたESG経営に基づき、コアコンピタンスを活かしたイノベーションにより業態を変革し、高い競争優位性をもった『次世代創造企業』を目指します」と話します。
この変革を推進していく上で、現在EJECが総力を挙げて取り組んでいるのが、さまざまな業務のボトルネックとなっていたシステムの全面的な刷新です。
「既存の基幹システムは伝票登録と法定帳票出力はカバーしていたものの、営業管理や会計などの各サブシステム間のデータの抽出・加工・投入はすべて手作業で行われていました。また、事務処理のプロセスの約70%が、Excelファイル主体の“自社流”で行われており、しかもそれぞれの業務で培った知見は組織の形式知ではなく個人に蓄積されてサイロ化していました」(藤田氏)
さらに、人事系のシステムも同様の課題を抱えていました。
「社員の入社、異動、退社はさまざまな部門が関係するにもかかわらず、その情報が関係部門間でタイムリーに共有、連携されていませんでした。また、社員のパフォーマンスを客観的に把握する仕組みも不足していました」(藤田氏)
「ワークをフローさせる」本来のワークフローに基づく業務プロセスを実装
EJECでは、手作業や多重入力、ひとづての情報共有が多く、部門や担当ごとに分かれて業務が行われていたことから間接費の高止まりを招いており、こうした現状から脱却したいと考えていました。人と仕事と資産のデジタル化・可視化を実現し、これまでの作業偏重から「思考と試行主体の働き方」への転換を図ることが、システム刷新に向けた大きな目的です。
こうしてEJECは2021~2024年度までの第5次中期経営計画のもと、次のような新システムの基盤を構築しました。
営業プラットフォームとリアルタイムERPを2つの軸とし、名刺管理や人財管理、経費管理、ビジネスインテリジェンス(BI)、分析・予測、セキュアなドキュメント保管などの機能を連携させることで、全社データの一元化と可視化を実現していきます。データドリブンで迅速な意思決定を行うリアルタイム経営、全体システムと統合された人材管理、標準工程に基づく人材育成、タレントマネジメント(スキルの在庫管理)に基づく応札判断などを推進していきます。
そして、これらのシステムのフロントとしてEJECが強くこだわったのが、従業員と組織の新しい業務スタイルを⽀えるワークフローです。
「各アプリケーションに付属している承認機能は、ユーザーにとっては使い勝手が良いかもしれませんが、システムに記録された意思決定プロセスは断⽚的なものにしかなりません。⽣産性の阻害要因はいつまで経っても表⾯化せず、部⾨別システム時代の名残から踏み込んだ改善施策を実行することができません。そもそもワークフローは単なる承認・決裁システムではありません。『ワークをフローさせる』という本来のワークフローの役割に基づいた業務プロセスの実装に臨みました」(藤田氏)
この基本方針を具現化するワークフローのプラットフォームとして、EJECはまず2022年にServiceNowのIT Service Management(ITSM)、続いて2023年にHuman Resource Service Delivery(HRSD)を導入しました。
「クラウドプラットフォームであることを大前提に、さまざまな要件をスコア化して比較検証を実施しました。例えば、多様なアプリケーションと連携できることや代理承認に関する機能、そのほかにも組織変更や人事異動への対応やプロセスモニタリング、プロセス統計と分析などを要件としました。これらに加えてテーブルを使った一時的データストアの機能、当社が採用するRPAとの連携も評価し、ServiceNowをワークフローの基盤とすることに決めました」(藤田氏)
個別問い合わせを削減して情報システム部門の業務を効率化
まず2023年4月に本稼働を開始したITSMは、さまざまなシステムに関する従業員からの問い合わせ窓口を統一することで、情報システム部門の業務変革に寄与しています。
「従業員の利便性が向上したことで、これまで電話やメール、対面などさまざまな手段で行われていた個別の問合わせ件数は、従前より約8割も大幅に削減されました。また、すべての問い合わせ内容がデータとして蓄積されるようになったことで、その全体像を俯瞰してシステムの問題点の傾向を分析するほか、FAQ(よくある質問と回答)にまとめて公開して自己解決を促進するなど、より合理的なオペレーションが可能となりました」(藤田氏)
また、ITSMと併せて導入したNow Platformも、さまざまなアプリケーション開発に用いられており、業務効率化や従業員体験向上に効果をもたらしています。購買管理アプリもその1つです。
「当社は業務の一部を社外のパートナーに外注することも多く、年間約6,000件にも達しているのですが、そこで発生する契約手続きは基本的に紙の書類のやりとりで行われており、各事業部門における重い作業負担となっていました。そこにNow Platformを活用することで、営業プラットフォームに外注情報を入力すると自動的にワークフローが起動し、帳票作成から電子契約システムを通じた発送、受領した書類の格納まで、オペレーションが一気に流れる仕組みを実現することができました」(藤田氏)
従業員の入社や異動、退社の円滑なワークフローを確立する
HRSDについても2024年度内の本稼働を目指し、新たな人材の入社手続きをはじめ、従業員の異動や退社の円滑なワークフローを確立するための準備が進められています。
これにより従業員一人ひとりの業務パフォーマンスを客観的に把握し、優れた功績を達成した従業員を褒章する体制を整えることで、モチベーションを向上させます。また、従業員一人ひとりの属性に合わせた個人用ポータルサイトを通じて、各自が必要としている重要な情報をタイムリーに提供できるようにします。
「HRSDを活用して人事部門による事務処理負担を従業員によるセルフサービスへ転換することで、情報収集とチェックの手間を大幅に削減し、そこで生み出された余力をよりプロフェッショナルな人事管理業務へ振り分ける計画です。また、Now Platform上で開発を進めている工数登録アプリならびに標準工数・標準工程の確立を通じて、現在スケジュールベースで行われている人材育成をコンディションベースへ転換することで、新卒・中途採用者のオンボードタイムを20%削減できる見込みです。また、既存の従業員に対しても労働流動性を高めることで、従業員ライフサイクルと事業環境に即したアサインメントと早期昇進を実現する見通しです」(藤田氏)
さらにEJECでは、基幹系の複数のシステムをまたいで行われているクロスアプリケーションワークフローや、各アプリケーションで完結しているワークフローなど、既存の業務プロセスの多くを将来的にはServiceNowに集約していく計画です。その上で、プロセスマイニングと連携することで、随時ワークフローの最適化などの継続的な改善を図りつつ、2030年に向けて、社内外の多様な人材が柔軟に協業できる基盤を確立していこうとしています。