東広島市は「グローカルなピース& サステナブルユニバーシティタウン構想」を推進する中で、市民ポータルサイトと事業者ポータルサイトを構築するとともに、その継続的なサービス追加に取り組んでいます。ノーコード・ローコードによるNow Platform の強力な開発環境を活用し、市職員自身による内製化のアプローチのもと、子育て世帯(就学前児童)の負担軽減を目的としたさまざまなサービス提供を実現しました。
ばらばらだった住民接点のデジタル転換が必要に
広島県の中央部に位置する東広島市は、南は瀬戸内海から北は中国山地の中山間地にわたる広い市域を有しています。広島大学をはじめ4 大学がキャンパスを構えるほか、周辺には広島中央サイエンスパークといった研究機関も立地しており、「自然豊かな国際学術研究都市」が市の大きな特徴となっています。
2005 年の「平成の大合併」を経て、人口は12 万人から19 万人に増加。現在も緩やかに人口増加を続けている数少ない地方都市の1 つとしても注目されています。 さらに今後に向けても、「イノベーションの創出のための環境づくり」と「インクルーシブデザインのまちづくり」の2 つのビジョンを掲げた「グローカルなピース& サステナブルユニバーシティタウン構想」を推進しています。
そんな東広島市が継続的に取り組んでいるのが、市民ポータルサイトと事業者ポータルサイトの構築および継続的なサービス追加です。
構想が始まったのは2019 年のこと。同市 総務部 DX 推進監の橋本光太郎氏は、背景にあった当時の課題を次のように話します。
「住民サービス向上のために導入したさまざまなスマホアプリが乱立し、タッチポイントが分散していました。しかもこれらのサービスのほとんどは、双方向コミュニケーションには対応できていません。住民のライフスタイルが多様化していく中で、これらの個別導入したサービスは使い勝手の悪さが壁となって利用者が伸び悩んでいました」
そこで東広島市は、ユーザーエクスペリエンス層やバックエンドで各サービスやシステムをつないでいくことで市民の利便性を向上する、新たなプラットフォームの検討を開始しました。
「双方向のコミュニケーション機能を持つポータルによって住民接点のデジタル転換を図り、その統一されたタッチポイントを通じてさまざまなサービスや情報を提供していきます。さらに居住地や趣味などに関する情報もオプトインすることで、ほしい人に、ほしいサービスをお届けすることをコンセプトとする市民ポータルの基盤として『CRM(Citizen Relationship Management)』の構築をスタートしました」(橋本氏)
短期間での構築を支えたNow Platform
もっともプロジェクトは順風満帆とは言えませんでした。
「コロナ禍によるスケジュールの遅延があり、かなり短期間での開発を余儀なくされました。そもそも過去に手がけたことのない分野のシステム開発であることから、実現可能性に対するリスクもありました」(橋本氏)
この困難なCRM 構築を支えたのがServiceNowのNow Platformです。これにより分散していたタッチポイントを集約し、利用者中心のモバイルネイティブなサービス基盤を構築したのです。2020 年12 月に構築事業者を決定し、翌2021 年3 月に運用を開始するというタイトなスケジュールで作業を完了しました。
一方では事業者ポータルサイトの構築も進んでおり、住民と事業者が有機的につながる多彩なサービスを生み出し、実装していける環境が整えられています。
東広島市では、開発対象のサービスが複数あったことから、市民ポータルをある事業者に委託してサービスインした後に、事業者ポータルは別の事業者に開発依頼。こうして並行開発を行うことで、市民と事業者へのサービス展開をスピーディに行うことに成功しました。
「このような進め方によって、それぞれの事業者の強みとノウハウを職員が吸収し、職員自ら行う市民開発に厚みを持たせられるのではと期待しています。Now Platform はノーコード・ローコードといった強力な開発環境やデータガバナンス、ワークフローといった機能はもちろん、Enterprise Architecture によって複数の事業者様や職員自らの開発を同時並行で進められる点も非常に魅力的です」(橋本氏)
サービス拡充に伴い利用者数が急増
CRM にはすでに多くのサービスが実装され、公開されています。「幼児・児童・生徒の保護者、子育て世帯、大学生、地域、高齢者など、ターゲットを明確化してサービスを実装していく」という基本戦略のもと、2021 年4 月より段階的にリリースしていきました。
たとえば小中学校や幼稚園に通う子どもたちの保護者に対しては、学校や園からの情報配信に始まり、欠席・遅刻連絡、健康観察、保護者へのアンケート、学校カレンダーなどのサービスが追加されていきました。同様に住民のくらしに関するものでは、市政情報や地域のゴミ出し日の通知に始まり、マイナンバーカードの受け取り予約、図書館カードのデジタル表示、市民アンケート、防災情報の通知、証明書のオンライン請求といったサービスが順次拡充されています。
これに伴い利用者数も大きく伸びています。「最初にサービスをリリースした2021 年4 月当初は約1万6000 人の登録者でしたが、2023 年3 月時点の登録者数は3 万3000 人を超えるまでになっています」(橋本氏)
市職員自身の内製開発で新サービスを実装
CRM への新たなサービス追加にあたっては、市職員が自らNow Platform を利用して開発作業にあたる内製化への取り組みを強化しています。たとえばService Portal 機能を用いたWeb ページの作成、カタログアイテム(ユーザー情報の登録フロー)の作成、利用者情報が格納されるデータテーブルの準備、外部サービスとのAPI 連携ならびにポータル上へのインラインフレーム表示などが、市職員の手によって実装されるようになりました。
この内製化アプローチのもとで進められてきたのが、子育て世帯(就学前児童)の負担軽減を目的としたサービス開発です。
「業務主管部門とデジタル部門の職員によるワーキンググループを立ち上げ、2022 年4 月から約1年間にわたり週1回のペースで継続的なワークを実施してきました。また、対象となる住民の声を直接取り入れながら利用者のニーズを明確化し、デジタルを活用したサービス提供について検討を行ってきました」(橋本氏)
こうして2023 年2月にリリースした子育てポータルでは、次の3つのサービスが追加されています。
1 つめは、イベントやお出かけ情報のお知らせサービス。カレンダー形式のユーザーインターフェースから、市内で開催される妊産婦・乳幼児を対象としたイベントや、お出かけ情報(市主催のイベント以外も含む)を簡単に検索できます。
2 つめは、ライフイベントに伴う手続きガイド。簡単な質問に答えることで、出生などの際の手続き場所や必要書類などのガイダンスをプロアクティブに提供します。
3 つめは、母子健康手帳交付および赤ちゃん訪問の予約・申請手続きのデジタル化。問診などの申請もスマートフォンから行うことができます。
大学プラットフォームとの連携による将来構想
もう1 つの主要サービスである事業者ポータルサイトは、事業者と行政、各団体(商工会議所、各商工会、青年部、青年会議所)をインターネットでつなぎます。「このシステムは『サポートビラ』と名付けられ、事業者同士をデジタルで連携させる統一されたタッチポイントを整備し、有益なサービスを提供します」(橋本氏)
現在までに、企業の事業活動に役立つ情報提供(助成金や補助金、市内で開催されるセミナーイベント、情報発信・リンク集、オンラインアンケートなど)のほか、インターネット上でのビジネスマッチング、行政手続きのオンライン化(競争入札参加資格の更新申請、道路占有申請、補助金手続きなど)といったサービスがリリースされています。
さらに東広島市は今後に向けて、広島大学などが運営するプラットフォームとの連携を進め、イノベーションのハブとして新たなビジネスやサービス創出の起点となる「TGO(Town & Gown Office)プラットフォーム」へと発展させていく計画です。
「CRM、サポートビラ、TGOの3つのプラットフォームを介して、各地域団体や子育て支援団体、学生、複業人材、商工会議所など多様な主体が緩やかにつながる世界観を実現していきます」と橋本氏は語っており、その取り組みの中から東広島市の新たな活力を生み出していこうとしています。
所属・肩書きを含む本事例の内容は2023 年6 月時点のものです。