ワクチン接種の予約受付システムを短期間で構築
ワクチン接種の結果登録に携わる職員を5~10名から1名へと削減
札幌市以外の7市町村へシステムを横展開
分断されたプロセスを一気通貫するシステムが必要
北海道は日本全体の面積の約1/4を占める非常に広大な自治体です。また道内179の市町村の中には大きな都市もあれば、離島もあるなど規模は幅広く、北海道の行政には他の都府県にはない苦労があります。その一端が顕在化したのが、新型コロナウイルスのワクチン接種です。
2021年2月14日にファイザー製ワクチンが製造販売承認され、予防接種法に基づき、まずは医療従事者を対象とした接種が始まりました。4月からは高齢者や基礎疾患を有する人への接種、6月中旬からは64歳以下も対象に加わり、ワクチン接種のスピードは加速していきました。
しかし、その水面下で行政の現場には大きな混乱が生じていました。北海道 保健福祉部健康安全局 局長の古郡修氏は、このように振り返ります。
「ワクチン接種の主体はあくまでも市町村ですが道庁はこれを支援することが役割と考え、状況をヒアリングしました。そこから見えてきたのは、予約から接種、結果を記録するまでのプロセスごとに異なるシステムが使われており、それらのシステム間を職員が介在して手作業やメディア渡しでデータ入力が行われている実態でした」
ワクチン接種を行う市町村は、具体的にはまず住民基本台帳から接種対象者を抽出して接種券を発送する一方、国からワクチンがいつ、どれくらいの量が入ってくるのかを把握した上で、接種会場となる各医療機関に割り振り、ネットやコールセンターを通じて予約を受け付けます。そして接種を行ったのち、その結果を国のワクチン接種記録システム(VRS)に入力するまでの役割を担っています。要するにこの一連のプロセスが、市町村ごとにばらばらのシステムと方法によって行われていたのです。
「当時、日本のワクチン接種状況は諸外国と比べて遅すぎると世間からも問題視されており、道庁としても札幌市に集団接種会場を設けるなど、各市町村と連携しながら自らワクチン接種に対応することにしました。いずれにしてもワクチン接種のスピードアップを実現するためには、広域に及ぶ各市町村に対して職員を派遣するといった支援は人的リソースの観点からも困難で、すべてのプロセスを一気通貫したシステムで附帯する事務作業を抜本的に効率化する必要があると考えました」と古郡氏は話します。
古郡 修 氏
保健福祉部 健康安全局 局長
2週間の納期でシステム稼動を目指す
とはいえ、ワクチン接種を支援するシステム構築に、残された時間的猶予はほとんどありませんでした。北海道 保健福祉部 健康安全局 国保医療課 主査の菅原祐二氏は、「道庁として大規模接種会場を6月中旬に開設すると決定したのは5月末のこと。実質1カ月もない中でシステムを立ち上げなければなりませんでした」と話します。
当然のことながら、これは通常の自治体におけるシステム導入ではありえないスケジュールです。ServiceNowには、Now Platformをベースにしたワクチン接種に対応したワークフローシステムがあり、これをテンプレートとして必要な機能を順次追加していく方式を採用することで短期導入を実現しました。
また古郡氏も「最初から接種結果を記録する機能まで実装する必要はなくとも、まずは予約受付さえできればスタートできます。それなら何とかなると、私たちは走りながら必要な機能を作っていくことにしました」と振り返ります。
ServiceNowを活かして柔軟に機能を追加
北海道庁はまず、海外で作られたNow Platformをベースとしたテンプレートの日本語化を進めることで予約受付の機能を整備していきました。
そうした中で「Now Platform上に蓄積された、ServiceNowの豊富なノウハウを利用できるメリットの大きさを実感しました」と話す菅原氏。特に大きかったのが、モバイルデバイスに対応した実績あるワークフローを利用できたことです。
「当時、予約の電話をかけてもまったくつながらないという問題が全国的に起こっていましたが、北海道ではNow Platformのおかげで最初からスマートフォンでの予約受付に対応することができ、住民の混乱はかなり抑えられたと思います。接種券番号と生年月日さえわかれば高齢者の予約を近親者が代行することもできるなど、さまざまな場面でモバイル対応機能は大きく役立ちました」と菅原氏は話します。
もちろん既存のテンプレートだけで、すべての要件に対応できたわけではありません。
北海道も他の都府県と同様に高齢者から優先接種を始めたため、生年月日に基づいて予約システムへのログイン可否を判定する必要がありました。その後、徐々に対象年齢を下げていったのですが、そこで新たに浮上したのが18歳以下の若年者にどう対応するのかという課題です。
予防接種法の決まりから中学生以下の子どもについては保護者の同意と同伴が必要なほか、そもそも市町村ごとに接種対象年齢が異なります。たとえばA町ではまだ18歳以上しか接種を開始していないにもかかわらず、札幌市の大規模接種会場では15歳の子どもも予約や接種ができてしまうとなればA町の権限を逸脱してしまいます。こうした細かなルールは独自にワークフローに実装していくしかありません。
「市町村ごとのルールを洗い出すまではかなり苦労もありましたが、その後のワークフローへの実装は比較的スムーズに進めることができました。この点でもNow Platformの柔軟なカスタマイズ性に助けられました」と菅原氏は話します。
また、短期間でのシステム開発にはシステム不具合を解消するスピードが重要ですが、ServiceNow社が提供するフォローザサン方式の24時間サポートを利用することで、世界中のサポート担当者が対応、不具合を翌朝までに解消できます。
接種結果の登録作業を大幅に改善
そして北海道庁はワクチン接種の予約受付を進めながら、同時並行で接種結果をVRSに登録する機能の開発を進めてきました。接種券に貼付されたシールをOCRで読み込んでデータ化し、予約リストからの消込処理を行うとともに、接種者のリストを自治体毎に集計しVRSへ一括登録可能な形式のデータを生成、各自治体へ送付する、といった一連のワークフローを自動化するもので、この機能が完成したことによりワクチン接種の事務方の作業負荷は大幅に軽減されました。
「大規模接種会場における毎日の接種結果を登録する作業で、VRS標準のタブレットを使った方法では5人から最大10人の職員を割り当てる必要がありました。これに対して私たちが開発した仕組みでは、1人の職員が1時間もあれば1日分のデータを登録することができます」(菅原氏)
より幅広い住民サービスへの適用を目指す
上記のようなワクチン接種に関する基本機能を実装したシステムは、2021年6月14日から稼働を開始しました。大規模接種会場の開設から遅れをとることなく、VRSへの結果登録まで含めた業務に対応することができました。最終的には札幌市を除く石狩振興局(旧石狩支庁)管轄内の7市町村(江別市、北広島市、石狩市、千歳市、恵庭市、当別町、新篠津村)がこのシステムを利用しています。
これにより仮に新型コロナウイルスがインフルエンザと同様に毎年の接種が必要となった場合でもこのシステムで対応することが可能です。
さらに北海道庁では、このシステムを新型コロナウイルスのワクチン接種だけに限定することなく、より幅広い住民サービスへの適用を目指した汎用的な仕組みとしても活用していくための可能性を模索しています。
「たとえば生後1カ月から4歳になるまで定期的に行われる乳幼児健診や成人のがん検診、給付金の申し込みなど、予約や申請を必要とする住民サービスは他にも多々あり、それらのワークフローにも今回のシステムを応用できると考えています」と古郡氏。
「国が進めているPHR(パーソナルヘルスレコード)など、デジタルによる住民の健康管理にもNow Platformを活用できそうです」と菅原氏も語っており、システムの高度化ならびに道内のより多くの市町村への横展開を見据えています。