文具の他、オフィス家具やオフィス設計・デザイン、働き方コンサルティング、BtoB通販など、多彩な事業を展開するコクヨ。誰もが活き活きと働き、暮らし、つながりあう「自律協働社会」を目指す同社は、従業員が働きやすい環境づくりにも積極的に取り組んでいます。その1つが、コーポレート部門への問合せ先の一元化です。以前の問合せ先は、電話やメールなど100以上に分かれていました。従業員はどこに問合せをしたら良いか分からず、またマニュアルや資料を探そうにも様々な場所に分散していたため、多くの従業員が困っていたと言います。この課題を解決するため、コクヨはIT Service Managementを導入。すべての問合せ窓口を集約した社内ポータルを開設しました。
従業員の多様で自律的な働き方を推進する問合せプラットフォームを構築
2021年2月に策定した「長期ビジョンCCC2030」で、未来にありたい社会として、誰もが活き活きと働き、暮らし、つながりあう「自律協働社会」という概念を掲げたコクヨ。その社会の実現に向けて、自らが果たす役割を「WORK & LIFE STYLE Company」と再定義し、「働く」「学ぶ・暮らす」のドメインで、文具や家具だけにとらわれない豊かな生き方を創造する企業となることを目指しています。
誰もが活き活きと働ける環境を、自社が率先して整えるべきだと考えるコクヨは、従業員満足度を向上させるための施策にも積極的に取り組んでいます。その1つが、コーポレート部門への問合せ窓口の一元化です。
「以前の問合せ先は、電話やメールなど100以上に分かれ、従業員の多くが困っていました。答えを得るまでに時間がかかり、手続きが遅れたり、本業に費やすべき時間が奪われたりするという問題が生じていたのです」と語るのは、同社 情報システム部 ワークスタイルソリューションユニット ユニット長の白須恵子氏です。
縦割りの壁をなくし、問合せ先を探す手間と時間を減らしたい
さらに調べてみると、申請・手続きなどの社内の問合せ対応に関しては、いろいろ問題があることが分かりました。その1つは、問合せ窓口が縦割りになっていたことです。
コクヨのコーポレート部門には、HR(人事)、理財(経理)、総務、情報システム、法務、広報など複数の部署がありますが、問合せ先は部署ごとに分かれており、それぞれの部署内でも問合せの内容ごとに担当者が割り振られていました。その結果として、問合せ先が100に上ってしまっていたのです。
そこで白須氏は、コーポレート部門へのあらゆる問合せを一元的に受け付け、ワンストップで回答する問合せプラットフォームの構築を考えました。
同じような課題感は、白須氏がユニット長を務める情報システム部だけでなく、他のコーポレート部門も抱えていました。そこでHR、理財、総務のメンバーや働き方タスクフォースメンバーと共に、19年6月に社内問合せを一元化するためのプロジェクトチームを編成。部門横断の横串しチームによって取り組むことにしました。
プロジェクトチームは、コクヨの多様で自律的な働き方を推進する問合せのプラットフォームを「WEBコンシェルジュ」と命名。「WEBコンシェルジュ」を構築するための基盤として、プロジェクトチームはIT Service Managementを採用しました。
従業員がセルフで問題解決できるように、FAQの整備から始める
構築にあたってまず取り組んだのは、従業員がセルフで問合せを解決できるように、よくある問合せのFAQ(ナレッジ)を準備することです。このFAQを常に改善し最新化することで、従業員があちこち探し回ることなく「WEBコンシェルジュ」にあるFAQを検索して自己解決することができると考えたのです。
また、FAQで自己解決できなかった場合に問合せをフォームで起票できるようにしました。「WEBコンシェルジュ」上で問合せ内容を入力してフォームを起票すると、HR、理財、総務、情報システムの窓口担当者が問合せの受付を行い、すぐに回答、または専門の担当者や他部門に取り次ぐようにしたのです。これにより、問合せを「WEBコンシェルジュ」に入れれば、必ず回答が来るという仕組みが出来上がりました。
窓口の一本化によって、たらい回しなどによる時間ロスを減らす
従来は、同じHRへの問合せでも、内容によって従業員が担当者まで探し出さなければならなかったのですが、この仕組みでは、入力された問合せ内容を一次受けのHRの窓口担当者が確認し、それぞれの専門の担当者に取り次ぐという流れになりました。
従業員にとっては、窓口が一本化されるので、担当者を探し出す手間や、たらい回しなどによる時間のロスが軽減されます。一方で、問合せを受け付ける担当者にとっても、業務負荷を減らせるメリットがあります。
以前は、問合せを直接受けるたびに、業務の手を止めて対応しなければならず、よくある問合せでも何度も同じ回答をしなければなりませんでした。また問合せによっては、他の担当者への取り次ぎの手間も発生していました。
「WEBコンシェルジュ」によって専門の担当者に取り次がれる問合せの数そのものが減り、担当者の業務負荷が軽減されました。問合せ対応品質の向上と、業務負荷の軽減が同時に実現する仕組みを目指したのです。
従業員の94%が「便利」だと回答、満足度の高いサービスが実現する
構築フェーズでは、各部門が緊密に連携しつつ物事を進めるコクヨの持ち味が遺憾なく発揮されています。例えば、「WEBコンシェルジュ」の運用の肝となるのはFAQの整備ですが、この点については総務部が培った知見とノウハウが生かされました。
「実は『WEBコンシェルジュ』が稼働する1年ほど前から、総務部独自で従業員の問合せに対応するチャットボットを運用していました。『WEBコンシェルジュ』の構築時に各部門でFAQを3カ月ほどかけて整備しましたが、整備のためのマニュアルや最新化し続けるためのノウハウが総務部で出来上がっていたので、『WEBコンシェルジュ』のFAQ作りに役立てることができました」と語るのは、同社 ヒューマン&カルチャー本部 総務部 オフィスサービスユニット(品川)の北 利幸氏です。
こうして21年3月、「WEBコンシェルジュ」は本稼働しました。
プロジェクトチームでは、「WEBコンシェルジュ」の導入効果を検証するため、定期的に利用者アンケートを行っています。「サービスの認知率は本稼働から2年足らずの22年12月時点で97%に達し、『便利に感じている』との回答も94%に上っています。何よりアンケートの回答率が34%と、この種の調査としては非常に高い水準であることが、従業員の問合せへの関心の高さを物語っているのではないでしょうか」(北氏)。
申請・手続きなど業務自体をシンプルにして、「問合せゼロ」を目指す
FAQを整備して回答が可視化されることにより、よくある質問なら専門の担当者以外でも対応できるようになったことも、満足度の向上につながっているようです。
「かつては、同じHR部内でも専門の担当者にしか分からないことが多く、その人が不在のときには回答に時間がかかったりしていました。FAQが用意されたおかげで、回答が可視化され、他の人でもかなり対応できるようになりました」と語るのは、人事の問合せ窓口を担当するヒューマン&カルチャー本部 HR部 ビジネスライフサポートユニットの阪東千恵子氏です。
HR部では、問合せの窓口担当をユニットの全員が当番制で担当しています。「すべてのメンバーが専門以外の問合せも受け付け、可能な範囲でFAQを見ながら回答もするので、全体の知識が底上げされるというメリットがあります。問合せの傾向を把握し、FAQの内容を見直したり、増やしたりすることにより、レスポンスの早さだけでなく、回答の品質向上にもつながっています」と阪東氏は言います。
白須氏は今後について「問合せ件数をゼロにすることを目標としています。そのためには『WEBコンシェルジュ』を問合せの基盤から業務プロセス改善や再設計の基盤へと拡大していきたい。次のステップでは、問合せの元となる申請・手続きそのものを、従業員誰もが迷わず悩まずに行えるように再設計していきます」と語ります。
ServiceNowの活用によって、コクヨの社内サービス改革は着実に前進しそうです。