従業員体験を統合・高度化
お客様のため自らを変革
DXという概念が一般化していなかった2008年ごろから、他社に先駆けて積極的なデジタル変革に取り組んできたNEC。同社は「お客様のDX」や「社会のDX」に貢献するため、自らがまず「社内のDX」を推進し、その生きた経験や培ったノウハウを還元していきたいと考えています。「社内のDX」の実践に向けて、NECはServiceNowのソリューションを導入しました。事前のデジタル成熟度診断でプロジェクトの優先順位付けを行い、手始めに「社内ITサービスの窓口の高度化」に着手。サービスごとに500以上もあった窓口を集約した結果、「一次回答率」が大幅に向上し、回答のリードタイムが半分以下に短縮するといった、様々な効果が表れています。
「社内のDX」「お客様のDX」「社会のDX」を経営の中核に据える
「安全・安心・公平・効率という社会価値を創造し、誰もが人間性を発揮できる持続可能な社会の実現を目指す」というPurpose(パーパス、存在意義)を掲げるNEC。その実現に向け、「2025中期経営計画」で、「コーポレート・トランスフォーメーション(社内のDX)」「コアDX(お客様のDX)」「フラッグシッププロジェクト(社会のDX)」の3つのDXを経営の中核に据えました。
「『お客様のDX』『社会のDX』を積極的に支援することが、Purposeの実現に向けてNECが提供できる価値だと考えています。その価値を最大化するためには、自らをゼロ番目のクライアントと位置付ける『クライアントゼロ』の考え方のもと、我々自身が、最新のテクノロジーを自社で実践することで、社内変革を推進し、お客様や社会に還元できる経験やノウハウを蓄積しなければなりません。その意味で、『社内のDX』は非常に重要な取り組みであると考えています」
そう語るのは、NECで執行役Corporate EVP兼CIO兼CISOの小玉 浩氏です。
「ServiceNowと一緒になってOne NEC System化を推進
NECでは企業価値の向上のために、事業戦略、事業ポートフォリオ、財務戦略、文化、人を重要要素と位置付けています。
「その中でも人の変革は、非常に重要だと考えています。従業員の『変わろう』とする意識を醸成し、『変わる』ための行動を促すことが、すべての改革の原動力となるからです。そんな意識と行動の変革を支援する環境づくりのため、当社は社内システムを仮想的に統合するOne NEC System化という構想を掲げました」(小玉氏)
One NEC System化を実現するため、同社は社内のみならず、異業種やアカデミアなど様々なパートナーとの協業を模索しました。その中で出会ったのがServiceNowです。
「ServiceNowは、Now Platformという単一プラットフォームで様々なシステムをつなぎ、それによって卓越した顧客体験や従業員体験、飛躍的な生産性向上を実現するという明確なコンセプトを持っています。しかも、コンセプトを具現化するための豊富なサービス群やアーキテクチャが整備されており、One NEC System化を一緒に実現するのにふさわしいパートナーであると認識しました」(小玉氏)
2022年、NECとServiceNowは戦略的協業を加速させることで合意しました。「NECとServiceNowがワンチームとなって、自分たちが得た経験、ノウハウをお客様や社会に還元していくという方向性が定まりました」と小玉氏は語ります。
自社のデジタル成熟度を診断して、プロジェクトの優先順位付けを行う
NECは導入プロジェクトの開始にあたって、ServiceNowのInspire Valueプログラムを利用し、自社のデジタル成熟度を診断しました。「ServiceNowの導入効果が早期に出るポイントを明らかにして、優先順位付けをするためです」と語るのは、ServiceNow CoE 責任者として従業員エクスペリエンス向上施策をリードする同社 コーポレートIT・デジタル部門 経営システム統括部 上席プロフェッショナルの井戸川 誠氏です。
課題として浮かび上がったのは、社内のITサービスの問い合わせ窓口が500以上もあり、社員がどの窓口に問い合わせたらいいのか分かりにくいというものでした。
「当時は、社内の多くのITサービス窓口がそれぞれの専用サイトやシステムで問い合わせに対応しており、窓口を探す手間がかかるだけでなく、システムごとに異なるUIや操作方法に戸惑う社員も少なくありませんでした。そこで、まずはServiceNowのIT Service Management(ITSM)を導入し、窓口の集約とUIの一元化を図ることにしたのです」と説明するのは、NECでServiceNowの導入プロジェクトを担当するコーポレートIT・デジタル部門 経営システム統括部 プロフェッショナルの武田 亮介氏です。
ITサービスの問い合わせ窓口を集約、リードタイムが最大57%も短縮
500以上あった窓口のうち、とくに利用率の高い137の窓口をこのポータルに集約することにしました。これによって、主な問い合わせはポータルで行えるようになり、操作方法に迷うこともなくなりました。「その上、各サービスや手続きに関するFAQを集約し、ポータル上で調べられるようにしたので、問い合わせをしなくても自己解決できる割合が高まりました。結果的に従業員エクスペリエンスは向上し、窓口担当者の業務負荷も軽減されるという効果が表れています」と武田氏は語ります。
窓口担当者側にも、問い合わせを受けると関連するナレッジ記事を自動提案する機能を設けた結果、回答のリードタイムが最大57%短縮される効果も出ているそうです。
「社員によるポータルを使った問い合わせ件数は月間約2万件、ナレッジ記事の参照は月間約13万ビューに上っており、活用が進んでいることを実感しています」(武田氏)
次のステップとしてNECが取り組んでいるのが、IT運用を自動化するServiceNowのIT Operations Management(ITOM)と、セキュリティ管理を自動化するSecurity Operations(SecOps)を組み合わせた「ITセキュリティ運用の自動化・効率化」です。ITOMが自動収集するシステムの構成管理情報と、SecOpsによるセキュリティ運用のワークフローを連携させ、脆弱性のあるシステムを瞬時に特定して、漏れなく対策が打てるような仕組み作りを目指しています。
「従来は、脆弱性のあるシステムを手作業で探り出してエクセルにまとめ、各担当者にメール等で対策を依頼していましたが、このすべての流れが自動処理できるようになり、業務効率が格段に向上するはずです」と武田氏は期待を寄せています。
変革の方向性と目標を示すBlueprintを策定
NECは、ITSMとほぼ同時期に、ServiceNowの人事サービス管理ソリューションであるHR Service Delivery(HRSD)も導入しています。2020年上期に窓口統合をスタートし、2022年度までにInspire Valueプログラムの調査結果から判明したNECグループ内のサービスデスク520の中から、問い合わせ規模が大きく、ITSM、HRSDに対応した47のサービス窓口をポータルに集約。その結果、問い合わせに対してその場で答えが得られる「一次回答率」は、ポータル開設前の40%から88%まで向上しました。
このように社内活用事例が増える一方、NECは2022年にServiceNowとの戦略的協業を加速させることを決定しました。2023年3月には、ServiceNowとの協業を通じて「2025中期経営計画」の最終年度に当たる2025年度までの3カ年計画の中で、NECが取り組むべき「コーポレート・トランスフォーメーション」を体系的に進めるために、ServiceNowの活用領域とその取り組みのロードマップを策定しています。小玉氏はこれを、「変革の方向性を示す青写真と実行計画を示したロードマップを総称してBlueprint」と名付けました。
Blueprintでは、デジタル成熟度診断で課題として抽出された「従業員エクスペリエンス高度化」のほか、「業務デジタル化とプロセスの継続改善」「ITセキュリティ運用の自動化・効率化」「事業運営の高度化・効率化」の4つの領域を変革の方向性として定めました。それぞれの領域には、2025年度までの到達目標も設定しています。また、NECは、Blueprintの策定にあたって、目標を定めるだけでなく、「どれだけの人員や開発体制を確保すれば目標を達成できるか?」という実行計画まで描き出しています。
この実行計画作りにNECが利用したのが、DXへの投資に対するリターンを最大化するために開発されたソリューションServiceNow Impactです。ServiceNow Impactを使えば、ソリューションの導入効果や価値が可視化されるほか、DX推進体制やガバナンスの検証などを行うことができます。
生成AIの活用についても、ServiceNowと共に知見を深める
Blueprintに描いた方向性に沿って、NECはServiceNowの活用を着実に進めています。「ITサービスと人事の問い合わせポータルができたことで、従業員エクスペリエンスの高度化はある程度進みましたが、Blueprintで描く他の領域については、まだこれからです。効果が大きく、Quick-Winしやすいプロジェクトから段階的にスタートさせ、少しずつ成功事例を積み上げていきます」と井戸川氏は説明します。
小玉氏は、「NECのように、様々な業務でスプレッドシートによる管理での手作業が残り、業務変革やデータを活用した経営管理への変革に課題を持たれている企業は多いのではないでしょうか。だからこそ、当社が『社内のDX』で得た経験やノウハウ、知見は、多くの企業の皆様に役立つはずです」と自社の経験を顧客のDXに生かすことへの期待を語ります。
最後に、今避けられない話題、生成AIの活用について、小玉氏に考えを聞きました。
「生成AIは、情報の信頼性や秘匿性、プライバシーの侵害などの課題も指摘されていますが、うまく活用できれば、NECの『社内のDX』が目指す、人の力を引き出し、より時代に適した働き方を進化させるなど、社会にインパクトをもたらす可能性があると信じています。様々なリスクに適切に対処しながら身近な技術に昇華させ、社会価値を創造していく生成AIの活用についてもServiceNowとの協業を通じて知見を深め、『お客様のDX』『社会のDX』につなげていきます。ぜひご期待ください」(小玉氏)