世界には多様な社会とコミュニティが存在し、共通の社会課題があります。例えば、食料と水の安全保障や医療、気候変動緩和、インクルーシブ社会の実現は、どこに住んでいようとすべての人にとって不可欠なものです。科学者や技術者は純粋な知的好奇心や、世界をより良くしたいというビジョンに基づき、研究を行っています。
そうした人材が集まる大学が世界トップレベルの研究機関の1つである沖縄科学技術大学院大学(OIST)です。同大学には世界約70の国と地域から一流の研究者や優秀な学生が集まり、ServiceNowの単一プラットフォーム、単一データモデル、単一アーキテクチャを提供するNow Platformを活用して新たなコラボレーションエンジンを構築し、グローバルレベルでの社会課題の解決に向けた研究活動に取り組んでいます。
技術プラットフォームがイノベーションの障壁を取り除く
沖縄科学技術大学院大学(OIST)は、2011年に日本政府によって設立された世界トップレベルの研究機関です。イノベーションを促進し、社会全体に利益をもたらす画期的な解決策を生み出すために、優秀な人材が集まっています。
OISTには学部がありません。大学の理念や施設は、異なる分野で働く教員や学生、スタッフの間の壁を取り払うよう設計されています。これにより、対話を促し、知識やアイデアを共有し、新しい発想を取り入れ、革新的なアプローチを生み出すことを目指しています。
そんなOISTにおいて、沖縄キャンパス内だけでなく、外部のビジネスパートナーや学術パートナーとの連携を効果的に進める重要な要素が技術プラットフォームです。このプラットフォームは基幹システムを管理し、情報にアクセスし、標準化・効率化・自動化されたサービスを提供するのに重要な役割を果たしています。
ServiceNowのさらなる利用拡大を図る
OISTでは2019年よりServiceNowのIT Service Management(ITSM)を採用しています。ITSMは、OISTにおけるすべてのIT管理とサポートのためのプラットフォームとして定着し、IT専門家から教職員、学生までが信頼を寄せる共通システムとなっています。
管理者は、ITSMの豊富な機能や強固なアーキテクチャ、優れたコストパフォーマンスを高く評価しています。一方でユーザーにとっては単一のアクセスポイント、使いやすいITサービス、多言語対応、そして迅速な問題解決が大きな利点です。
その結果、ITSMは共同研究や学習活動を支え、同僚間のコミュニケーションを促進し、橋渡しの役割を担うとともに、統一された共同作業のツールや機能を提供しています。
しかし、ITSM要件にうまく適合した単一プラットフォームモデルであっても、これを他の基幹システムに拡大することは容易ではなく、依然として管理部門では高度にカスタマイズされたレガシーシステムが使用されていました。
そこでは、時間のかかる手作業のプロセスやメールによるコミュニケーション、ニーズごとに作成された個別のWebフォームが根強く残っていました。エンドポイントソリューションの導入も問題が多く、上手くいきませんでした。
「OISTの全員がITSMを信頼して使用していたため、我々のデジタルトランスフォーメーションの次なるステップとして、ServiceNowの利用拡大は当然の流れでした」と、OISTのITディビジョンでインスティテューショナル・アプリケーション・ヘルプデスクディレクターを務めるアレハンドロ・ビジャル ブリオネス氏は話します。
「Now Platformの単一のデータモデルとアーキテクチャを利用することで、現在そして将来も、私たちのニーズを満たす機能と特徴を備えた、独自の統合ソリューションを構築できます。ServiceNowにより、単一のプラットフォームで作業し、単一のポータルからサービスにアクセスできるという利点を最大限に活かすことができます」(ビジャル・ブリオネス氏)
新たな学生情報システムをApp Engineで開発
OISTは、ITSMで成功したアプローチをさらに拡大するために、ServiceNowのApp Engineを選択しました。
App Engineは、すぐに利用を開始でき、ベストプラクティスのローコード開発機能を提供します。OISTは、App Engineを利用して、自動化されたカスタムメイドサービスを提供するアプリを迅速かつ効率的に作成しています。安全かつ接続された環境にて共有データを使用することで、これらのアプリは一貫したユーザーエクスペリエンスを利用者に提供しています。
OISTが最初にApp Engineを利用して開発した例の1つが、新たな学生情報システムです。これにより、在籍する全295名(2024年9月現在)の博士課程学生の情報を管理できる安全なリポジトリを実現しました。このシステムには、登録情報や学業成績の記録、タイムラインやスケジュールのほか、学生指導や経済支援などの情報も含まれています。
「本学が必要とする詳細情報、機能、特徴を具体的に指定できた点は非常に助かりました。その後、IT部門の同僚と緊密に連携しながら、App Engineでシステムを構築し、一緒にテストと改善を行いました」と、大学院の研究科長オフィス教務セクションでアシスタントマネージャーを務める石川理恵氏は話します。
すべてのプロファイルが1カ所に保管され、常に更新されているため、学生や教職員は必要な情報に即座にアクセスし、リクエストを行い、同僚と連絡を取り、自身で作業することができます。
数多くの手作業によるタスクを排除し、単一システムによる自動化されたワークフローに置き換えたことで、OISTの全員が貴重な時間を節約し、学習や教育、研究、管理業務に専念できるようになりました。
システム管理もより迅速、かつ効率的になっています。月次リマインダーが学生に自動送信されるため、管理者がメールを個別に送信してフォローアップする必要がありません。学業成績証明書は自動的に作成され、配布されます。
また、合理的かつ統一されたシステムによって、臨時職員や新しい職員の研修がより迅速かつ簡単になりました。自動化によって複雑さが軽減され、使いやすさや明確さ、シンプルさの向上につながっています。
「例えば学生の延長の申請手続き・承認は、メールを送信して返信を待つ従来の方法では数日かかっていましたが、現在では、教職員と学生ともに作業が非常に簡単になりました。これらの動きはすべて自動的にServiceNowに取り込まれ、アクセスできるので、申請者(学生)及び承認者(教職員)が全タスクのステータスを把握できます」(石川氏)
さらに、ビジャル ブリオネス氏によると、これまで研究者は研究プロジェクトを進めるための情報収集に活動時間の30%~40%を費やしていたとのことです。「ServiceNowによって必要な情報に即座にアクセスできるようになったことで、研究者の日常に大きな好影響をもたらしていると思います」と語ります。
コンプライアンス、効率性、透明性を確保
また、OISTはApp Engineを使用して新しい文書管理システムを構築し、より効率的に法人文書管理に係る法令に対応できるようになりました。
「文書管理システムは、OISTの教員や研究者、事務職員など、学内のほとんどの人が利用しています。App Engineを導入する前は、カスタマイズを重ねたシステムを10年近く使用していました」と、法令・コンプライアンスセクションでコンプライアンスチームリーダーを務める渡嘉敷 瑞貴氏は話します。
法令・コンプライアンスチームは、OISTのApp Engine開発者と連携して、コンプライアンスの確保だけでなく、効率性とプロセスの透明性確保を実現するシステムを設計しました。このシステムでは、文書作成の際に事前承認された人に安全なアクセス権が提供され、変更がいつ誰によって行われたのかといった情報や承認プロセスの進捗情報を確認できます。
その結果、管理者や文書の所有者、承認者、そして各文書の作成に貢献したすべての人にとって、明確かつ管理の統一された記録システムを実現しています。
「App Engineの優れた点は、標準的な商用ソリューションでは得られない、私たちのニーズに合致した具体的な機能や特徴を設計できたことです」とビジャル ブリオネス氏は語ります。
「ボトルネックがどこにあるかをすぐに特定し、それを解消するための措置を講じることができるようになりました。その結果、文書作成プロセスはより迅速かつ合理的・効率的になり、貴重な時間を節約して、より付加価値の高い業務に人員を割けるようになりました」と、事務局長オフィス法令・コンプライアンスセクションでシニアマネージャーを務める坂田 英樹氏は話します。
「App Engineを使用して自ら開発することで、特定のベンダーに縛られることなく、システムを強化するための機能を継続的かつコスト効率よく追加できるようになりました」(坂田氏)
宿舎管理システムにApp Engineを活用し、固定資産の可視性を向上
App Engineは、宿舎管理システムの構築にも活用されています。このシステムは学生管理システムと統合され、OISTの海外教員・学生用のキャンパス宿舎の予約、利用、整備の管理に利用されています。
「今では、1カ所で各ユニットのステータスや空き状況を正確に把握できるようになり、将来の学年度の需要を満たすための宿舎施設計画を正確に立てられるようになりました」(ビジャル ブリオネス氏)
固定資産の追跡・管理方法もApp Engineによって一新しました。Excelベースの部門別システムが一掃され、検索可能な単一のデジタルインベントリに置き換えられました。
OISTのApp Engine開発者は、同大学のERPシステムを支援するプラットフォームソリューションを構築することで、大学内のすべての固定資産の場所・状態・ステータスを完全に可視化できます。国に対するタイムリーかつ正確な報告もできるようになりました。
「将来的には、ServiceNowでこれらの情報を利用することで、資産の利用とメンテナンスをより効率的に計画し、交換スケジュールを延長し、さらなる価値を引き出せるようになると考えています。私たちは現在約30種類のアプリケーションを使用していますが、App Engineを使用して、これらを徐々にServiceNowに取り込んで行く予定です。単一のプラットフォーム、データモデル、アーキテクチャのメリットを最大化し、最終的にはAIの力を最大限に活用することを目指します」(ビジャル ブリオネス氏)