企業や自治体に多様なサービスとソリューションを提供するソフトバンクの法人事業部門。顧客からの問い合わせの窓口がサービスごとに異なり、対応方法も電話やメールが主体となっていることに課題を感じていました。その課題を解決するために、同部門で顧客向けのテクニカルサポート業務を担当するICTオペレーション本部はServiceNowを導入。問い合わせの窓口をワンポータルに集約したほか、顧客対応の仕組みを標準化することで、業務効率の改善とサービスの品質向上を目指しました。
サービスの増加とともに、顧客対応の仕組みの見直しに着手
携帯電話サービスやインターネット回線サービスのほか、多様なサービスを提供するソフトバンク。法人向けにも、様々なサービスとソリューションを提供しています。
「かつてはネットワーク、モバイル、音声サービスが主体でしたが、近年はDX(デジタルトランスフォーメーション)の進展とともに、クラウド、セキュリティ、IoTなどの法人向けサービスを次々とリリースしています」と語るのは、同社 ICTオペレーション本部 オペレーションサービス第1統括部 担当部長の有田洋介氏です。
サービスの種類が多くなれば、問い合わせや問題発生時の対応要請も増えるため、いかに効率よく対応し、顧客満足を維持・向上させるかが大きな課題となります。
「お客様に信頼され、継続的にサービスをご利用いただくには、迅速かつ適切に対応できる体制が不可欠です。しかし、システムの老朽化や、サービスごとに窓口や対応手法が異なっているため、品質を維持するためには人手をかけての対応が必要でした。サービスが次々とリリースされる中、これまで通り人手をかけて行うことには限界があり、効率化や自動化が必須でした」(有田氏)
サービスデスクごとに異なるシステムと運用ルールを一新したい
顧客対応の効率化を妨げていた原因について、「問い合わせに対応するためのチケットシステムも長く運用し続けてきたので、いくつか老朽化したシステムがありました。古いシステムは、対応できるメンバーが限られることから属人化につながるため、早急に対応する必要がありました」と説明するのは、同社 ICTオペレーション本部 オペレーションサービス第1統括部 Smart Operation開発第1部 部長の志渡澤知啓氏です。
さらに、同本部が実現したいと考えたのは、各サービスデスクによる対応の仕組みの一元化です。「お客様から異なるサービスに関する問い合わせを同時に受けても、一度に処理できないことが大きな課題でした。システム同士がつながっていないのでサービスデスク間は電話やメールでやり取りするしかありません。結果、作業は煩雑になり、お客様を待たせてしまうという悪循環に陥っていました」(志渡澤氏)。
以上のような課題を解決するため、ICTオペレーション本部は2018年にServiceNowを導入。老朽化したチケットシステムを、最新のデジタルテクノロジーでモダナイズされたソリューションに置き換えました。同時に、それを足掛かりとしてサービスデスクごとに異なっていた運用の仕組みを、「ServiceNowでできること」に合わせて標準化、一元化することを目指しました。
問い合わせ用のポータルを開発、業務負荷の軽減を見込む
ICTオペレーション本部は、ServiceNowを導入して以来、その機能を活用して、様々な“Smart Operationの実現”を推進してきました。
その最大の成果の一つが、すべてのサービスに関する問い合わせを受け付けるポータルの開設です。従来、ソフトバンクの法人向けサービスの顧客は、サービスごとの窓口に電話やメールで問い合わせを行っていました。そのチャネルは残しつつ、ウェブでも問い合わせができるようにポータルを新設したのです。
「ポータルなら、よくある問い合わせはFAQによってお客様が自己解決できますし、電話やメールと違い、つながるまで待たされたり、確認が遅れて対応に時間がかかったりすることもありません。オペレーターにとっても、処理しなければならない電話やメールの件数が大幅に減るので、業務負荷の軽減が見込まれます」(志渡澤氏)
仕組みやルールをServiceNowで標準化検討
どんなサービスに関する問い合わせも1つのポータルで受け付けるというのも、顧客にとってはありがたい点です。電話やメールだと問い合わせ先はバラバラになりますが、ワンポータルに集約されれば、「このサービスに関することは、どこに聞けばいいのか?」と迷うことがなくなります。その意味でも、ポータル利用が促進されていけばサービス品質は大幅に改善が期待できます。
1つのポータルですべての問い合わせに対応するには、ServiceNowによって、サービスデスクごとの問い合わせ対応の仕組みやルールが標準化され、サービスデスク間の情報も相互に共有される必要があります。
「標準化に向けて、サービスデスクごとの既存の仕組みやルールを総ざらいし、何をどう変えればServiceNowをより良く活用できる運用方法に統一できるのか検討を重ねました。各デスクに入念なヒアリングを行い、現在の業務フローを描いて可視化し、ServiceNow上でも業務フローを提示して、ギャップを明確化しました。そして、そのギャップを埋めるための解決策を提示しながら、すり合わせをしていき仕様を固めていきました。追加で行われる日々の開発についても、同様の考えを踏襲して機能拡張に取り組んでいます」と志渡澤氏は説明します。
ServiceNowの標準機能を活用して様々な機能やサービスを開発
このほか、ICTオペレーション本部はServiceNowの標準機能を使って、オペレーターの業務効率化や、顧客満足向上のための様々な機能を開発しています。
その一つが、翻訳機能です。ソフトバンクの法人向けサービスは、日本国内の企業だけでなく、その海外現地法人や、海外企業も利用しています。そのため、問い合わせや申請のためのポータルも、日本語だけでなく、英語にも対応する必要がありました。
「ServiceNowのプラットフォームには、翻訳機能が標準搭載されており、簡単、かつ低コストにAPI連携させることができます。これを活用して、入力した文章がすぐに翻訳される機能を追加しました」(志渡澤氏)
また、ポータル画面には、顧客ごとに、利用しているサービスにどのような障害が発生しているのかをトップページで通知する機能もあります。
これもServiceNowの標準機能を基に開発したものです。障害の発生状況だけでなく、過去のステータスの履歴や、直近に計画されているメンテナンスの情報も確認できます。いずれも、従来は電話やメールで確認しなければなりませんでしたが、ポータルを開くだけで状況や予定が把握できるようになったのは、顧客にとってありがたいはずです。
自社システムやネットワーク監視のためITOMも導入
さらに、一部のサービスにおいてはクラウド上の仮想マシンの起動や、監視の一時的な停止といった顧客からの作業依頼が、電話やメールではなく、ポータルへの入力で行える機能も開発しました。
「ServiceNowのAutomation Engineに搭載されているIntegration Hub機能を使って、入力された内容を基に、自動的に作業まで実行する仕組みを構築しました。従来は、オペレーターが電話などで依頼を受け、それを引き継いだ担当者が手作業で処理していたのですが、人手が全く不要になりました。一部のサービスに限られますが、お客様にとっても、いつでも依頼ができて、利便性が大幅に向上したと思います」(志渡澤氏)
このほか、ServiceNowに標準装備されているチャットボット機能を使って、顧客からの問い合わせに無人で対応するバーチャルエージェント機能を搭載する準備も進めています。以上のような顧客向けのサービス以外に、ICTオペレーション本部ではServiceNowのIT Operations Management(ITOM)も導入。自社のシステムやネットワークの監視アラート連携や構成管理情報の自動収集に利用しています。今後、ServiceNowの活用領域はさらに広がりそうです。
有田氏は、「ServiceNowは、お客様からの問い合わせや、サービスデスク側の対処に関する履歴が蓄積され、その情報を基にお客様対応の内容および品質の分析やサービスを継続的に改善できるのも大きなメリットです。まだ使いこなせていない機能もあるので、今後どんどんブラッシュアップし、サービス品質を高めていきたいですね」と抱負を語りました。