ITソリューション事業を展開するシスラボは現在、30年来活用してきた社内業務システムの再構築プロジェクトを進めています。システム基盤としては、デジタルワークフロー構築のためのノーコード・ローコード開発環境であるServiceNowのApp Engineを導入。さらに、生成AIを活用した開発支援機能であるNow Assist for Creatorも活用して、業務ユーザーを中心とした市民開発を実現しています。開発で得た知見は、今後同社のシステム開発ビジネスにも活かしていく計画です。
トップ主導のもとで、営業担当者を中心に内製開発
シスラボは、システムの企画から設計、開発、テスト、運用まで一気通貫でサービスを提供するシステム開発会社です。大手システムインテグレーターからの依頼はもとより、直接顧客企業と対話をしながらシステムの提案を行い、運用も顧客に最適なSLAを設定して高品質なサービスを提供しています。
また昨今では、クラウドやERPを中心に特定領域の開発パートナーとなりインフラとアプリケーションの軸でシステム構築事業を拡大するとともに、テクノロジーの潮流をキャッチアップして顧客企業における内製開発も支援しています。
その同社が現在注力しているのが、ServiceNowを活用したシステム開発です。自社内で利用する業務アプリケーションの開発基盤としてApp Engineを導入して業務効率化に取り組むとともに、専門技術者を育成し、C&I(Consulting&Implementation)パートナーとしてビジネス展開も行っています。
自社開発に際しては、代表取締役の佐藤悠一郎氏をリーダーとした推進体制のもとで、内製開発を進めています。
「2022年にServiceNowをすでに導入している顧客企業のセキュリティ案件を手掛けることとなり、複数の技術者が資格を取得してプロジェクトに対応しました。そこで得た開発の知見も踏まえて、ServiceNowが当社の業務システム基盤としても最適と判断し、2023年から自社でも採用しています。現在はエンジニアではない営業スタッフを中心に、ServiceNowのApp Engineを活用した業務システムの再構築を進めています」(佐藤氏)
App Engineで業務システムと申請フローを再構築
シスラボがServiceNowを自社導入した背景としては、30年を超える事業活動の中で同社のシステムが老朽化していたという問題がありました。ほかにもエンジニア集団であるがゆえに独自にアプリを開発して業務最適化を進めてしまい、ブラックボックス化と属人化が進むという課題も抱えていたといいます。そのためシステムの全体像がつかめず、最適な形でのシステム運用ができていなかったと佐藤氏は明かします。
「特に問題だったのが、営業支援システムと販売管理システムでした。前者は汎用のSaaS製品を活用し、後者は古いスクラッチ開発の仕組みを活用していたため、受注前の見込み顧客データと受注後の売上管理データが分断されて使いにくかったのです。社内のワークフローやデータ連携を簡単にしてどんどんつなげていき、単一のデータベースで情報を管理して、営業や人事・手続系業務におけるデータ入力作業の二度手間を防げるようにしたいとの思いもあり、システム基盤の刷新を検討していました」(佐藤氏)
そこでシスラボでは、自社開発を含めてさまざまな手段を検証したうえで最終的にServiceNowのApp Engineを採用して新たな業務アプリケーション開発およびワークフローの再構築を行うことを決定しました。
ServiceNowを選択した理由として佐藤氏は、開発にあたっての自由度と柔軟性の高さを挙げています。
「他のローコード・ノーコード製品にはデータの取り込みや連携など少なからず制約がありますが、ServiceNowにはそれがありませんでした。例えばApp Engineでワークフローを開発する際も、JavaScriptを書けばノーコード以外の部分もカスタマイズできます。今後新しいアプリケーションを開発していくことを踏まえると、拡張性がある仕組みを採用するべきだと考えました」(佐藤氏)
App Engine導入の第一弾となったのは、懸案だった営業支援システムと販売管理システムの再構築プロジェクトです。全体のとりまとめを佐藤氏が担当し、基礎資格の上位となるCIS(Certified Implementation Specialist)資格を取得したメンバーも含め、営業担当を中心に幅広い業務に知見を持った8名でプロジェクトを進めました。
実働面では、営業本部 ソリューション営業部 2課 課長の山田真也氏がアプリケーション開発のリーダーとなり、App Engineを扱えるエンジニアの育成や社内への普及・啓蒙の役割を担いつつ、営業部隊が中心となってアプリケーション開発を進めています。
「プロジェクトを進める中で、メンバー向けに勉強会やモックアップを開発する製作会を開いて開発の精度を高める一方で、社内に対しても名刺の発注やパソコンの貸し出し、有給申請などの汎用的なワークフローシステムを少しずつApp Engineで作り変えて、App Engineの普及活動を行っています。営業支援と販売管理のアプリケーション開発が完了したら、全社的にApp Engineによる業務アプリケーション開発をさらに浸透させて、各自が自然発生的にアプリケーションを開発できる市民開発の環境を作りたいと考えています」(山田氏)
App Engine導入による成果として山田氏は、設計者と開発者が近くなったことと、業務を行う現場のユーザーが声を上げやすくなったことを挙げています。
「開発面では、今まで設計だけ、または開発だけだったエンジニアがお互いを意識するようになり、開発がシームレスに進んでいくようになりました。業務現場のユーザーも、システムの使い勝手に不満を感じた際に言えば改善されるという基盤ができたことで、業務改善に対する意識が高まったと感じています」(山田氏)
Now Assist for Creatorで市民開発者のすそ野が広がる
シスラボ社内でのServiceNowによる業務アプリケーション開発では、ServiceNow開発者向けの生成AI機能である「Now Assist for Creator(以下、Now Assist)」を採用して業務効率を高めています。Now Assistにはコードの自動生成(Code Generation)やワークフローの自動生成(Flow Generation)機能も備わっていますが、特にアプリケーションのモックアップを自動生成する「App Generation」の機能が大きく貢献していると佐藤氏は話します。
「私自身は営業出身であるためアプリケーション開発経験はなかったのですが、試しにApp Generationを利用してみたら自分が作りたいアプリケーションのモックアップを簡単に作ることができました。私のような市民開発者の場合、App Engineを用いた開発においてアイデアを具現化するための開発工数を50%以上は削減できると感じています」(佐藤氏)
山田氏も、Now Assistを利用することでApp Engineの開発やアプリの機能を把握する際の習得スピードが2倍になると試算しています。AIの手助けによって、開発の知見がない業務ユーザーがアプリケーションを開発する一連の流れを学んでいく必要がなくなったため、より開発に参加しやすくなったと評価します。さらに自らの体験を踏まえて、App Engineをすでに理解している開発者にとってもメリットがあると語ります。
「App Engineでの開発をすでに理解している人でもNow Assistは有益です。ServiceNowのプラットフォームは膨大な機能があり、作りたい処理を開発する際にたくさんの実現方法が存在します。その際にNow Assistがあれば、例えばFlow Designer上で必要なアクションを探す手間が省けるほか、App Generationで公式の作り方を確認することができます。
さらに、作りたいワークフローのイメージをリクエストしてたたき台をNow Assistに作ってもらうことは開発工数の削減効果だけでなく、新たな気づきを得られると感じました。こうした経験は、ServiceNowをお客様に提案する際にも役立っています」(山田氏)
Now Assist for Creatorを約60ライセンス導入して社内開発を加速
ここまでの取り組みを踏まえて佐藤氏は、トップの視点で社内の業務システム変革の面で成果が生まれつつあると話します。
「App EngineとNow Assistを活用することで、モックアップの開発やPoCがスムーズに進みます。その結果、当社内でもコミュニケーションが活性化して内製開発の意識が高まり、多くの社員が業務システムを担う当事者になり始めていると感じています」(佐藤氏)
今後もシスラボでは、社内開発と顧客へのサービス提供の両面でApp EngineとNow Assist活用を推進していく構えです。社内プロジェクトを先導する山田氏は、今後の開発の方向性について次のように語ります。
「App EngineとNow Assistの自社利用を進めていく中、既存システムリプレースの過程で周辺のシステムを吸収しコストダウンにつなげています。当社内で大きく成功したと言える実績を作り上げ、今後その成果をソリューションやアプリケーションのテンプレートとしてお客様に展開していくことを目指しています」(山田氏)
実際にプロジェクトを通じてApp EngineとNow Assistの知見が社内に備わったことで、新たな案件の獲得にもつながったといいます。
同社では近い将来に半数以上の従業員がApp Engineを活用して、自然発生的に業務アプリケーションを開発するようになると見込んでいるとのことです。現在では、すでに約100人の社員に対して60人近くがNow Assistを使用できるライセンスを購入しており、ServiceNowを活用した業務効率化や顧客への展開を強化する体制づくりを着々と進めています。