農林中央金庫 理事 兼 常務執行役員 IT統括責任者 半場 雄二氏
農林水産業者の協同組織を基盤とする全国金融機関として、日本の農林水産業の発展に貢献し、グローバルな投融資を行う機関投資家としての一面も持つ農林中央金庫(以下、農林中金)。創立100周年を迎え、デジタル変革をきっかけとする組織風土改革に挑んでいる農林中金は、社内稟議や各種申請書の申請・承認などを行う「汎用ワークフロー」を刷新するため、ServiceNowのApp Engineを導入しました。以前のワークフローは、職員が何度も同じような作業をさせられたり、たらい回しにされたりするのが課題でしたが、刷新によって「プロセスが簡素化し、承認までのスピードが速くなった」との反響が。開発期間の大幅な短縮や、コスト削減効果も表れました。
業務システムのデジタル化とともに、社内風土改革を推進
JA(農協)、JF(漁協)、JForest(森林組合)など、農林水産業者の協同組合を基盤とする全国金融機関である農林中金。全国でサービスを展開する「JAバンク」「JFマリンバンク」のリテール(個人向け金融)事業を支えているほか、農林水産業者をはじめ、“食農バリューチェーン”を形成する加工・流通・外食業者への資金の貸出、国内外プロジェクトへの投融資など、その事業領域は多岐にわたっています。
2023年12月に創立100周年を迎えた農林中金は、その長い歴史の中で、時代の変化に合わせながらシステムや業務の変革を重ねてきました。その一つとして現在、挑んでいるのが業務の「デジタル変革」です。
煩雑な手作業や、紙のやり取りが多い業務をデジタルによって効率化し、職員の生産性を向上させることが主な狙いですが、単に仕事のやり方を変えるだけでなく、農林中金には、デジタル変革を通じてその先に見据えているものがあります。それはデジタルを積極的に活用しようとする「職員の意識」や「組織風土」の変革です。
他のソリューションと柔軟に連携するServiceNowを選定
農林中金は「業務システムのデジタル化」に本格着手するため、21年のグループウェアの導入を皮切りに、22年4月、半場氏が管掌するIT統括部内に「DXチーム」を設置しました。「従来、業務に利用してきたシステムを最新のSaaS製品群に置き換え、その組み合わせによって、業務そのもののあり方や、ワークスタイルの変革を促していくために専門チームを設けたのです」と語るのは、IT統括部 IT戦略グループ部長代理の柏原将飛氏です。
DXチームが最初に手掛けたのは、社内稟議や各種申請書の申請・承認などを行う「汎用ワークフロー」の刷新でした。
従来の汎用ワークフローは、稟議書を上げる過程で複数のシステムに同じ内容を何度も入力しなければならず、差し戻されるとまた新たな入力が発生するなど、プロセス間の分断による業務負荷が大きな課題となっていました。この課題を解決するため、DXチームは業務プロセスをエンド・トゥ・エンドで連携させ、申請から承認、文書保存に至るまで処理できる仕組みの構築を検討。そのためのソリューションとしてServiceNowを導入しました。柏原氏は、ServiceNowの選定理由について「組み合わせて利用したいと考えていたオンラインストレージやグループウェアと柔軟に連携できる点が、大きな決め手となりました」と語ります。
部品を組み合わせるだけで業務用アプリが構築できる
農林中金が「汎用ワークフロー」構築のために利用したのは、業務要件に合わせて比較的簡単に業務用アプリケーションが構築できるServiceNowのApp Engineです。
DXチームは、App Engineにもともとあるいくつかのパーツを組み合わせて主な機能ごとの“モジュール”を作ることから開発作業をスタートさせました。これは、先々の業務のデジタル化を見据えたものです。
「“モジュール” を再利用して組み合わせて、様々な業務アプリケーションが簡単かつスピーディに構築でき、共通化されているので運用もしやすい、そんな仕組みにしたいと考えました。時代の変化に合わせて、必要なアプリを柔軟に開発していけるようにするための下地を整えたわけです」と半場氏は説明します。
「汎用ワークフロー」は比較的大がかりなアプリケーションなので、組み合わせる“モジュール”も相当な数に上りました。
稟議申請・承認プロセスの抜本的な見直しも行う
「“モジュール” 構築の作業量もかなり膨大になりました。苦労のかいあって“モジュール”のライブラリは非常に充実したので、今後は機動的かつスピード感を持ってアプリをリリースできるようになるのではないでしょうか」と柏原氏は語ります。
ちなみに農林中金は、App Engineを使った「汎用ワークフロー」の構築に先立って、稟議申請・承認プロセスの抜本的な見直しを行っています。
「複雑なプロセスはなるべく簡素化し、複数部署の承認を要する稟議書は、時間短縮のため承認プロセスが同時並行で進むようにするなど、可能な限り改善を加えました。ワークフローだけでなく、プロセスそのものから変革したことが、職員に比較的スムーズに受け入れられたポイントだと言えそうです」と半場氏は説明します。
新しい仕組みを導入する際には、従来の仕組みを使い慣れた現場から少なからず抵抗があるものですが、現場のフラストレーションを軽減する刷新として取り組んだことが、成功につながったようです。
タスク処理の依頼や進捗状況の確認もスムーズに
こうして、農林中金がApp Engineで構築した「汎用ワークフロー」は23年8月、正式に稼働しました。
グループ全体で約6000人に及ぶ農林中金のユーザー(職員)からは、「プロセスが簡素化したので承認までのスピードが速くなった」「申請すると、すぐにチャットで担当者に届くので、時間のない案件の稟議を行う際にありがたい」といった高評価の声が届いているそうです。
「職員のフラストレーションを軽減するために」という目的で行った「汎用ワークフロー」の刷新は、一定の評価が得られているようです。
また、この「汎用ワークフロー」には、業務上の様々なタスク処理を依頼する「指示発信」というメニューも用意されています。従来は電話やメールで行っていたタスク処理依頼を、ワークフロー上で行えるようにしたものです。
「誰が、どのタスク処理にアサインされ、作業がどこまで進捗しているのかといったステータスもひと目で確認できるようにしました。おかげで依頼が簡単になり、作業の抜け漏れもなくなったと好評です」と柏原氏は語ります。
導入コストが大幅に低減、開発期間も短縮される
ServiceNowによるワークフローに置き換えたことで、導入コストや運用コストも大幅に低減されました。「従来の『汎用ワークフロー』を単純更改した場合の金額と比較すると、導入コストは7割程度で済みました。しかもSaaSなので、ランニングコストは圧倒的に下がっています」と柏原氏は明かします。
開発期間も、従来の「汎用ワークフロー」の単純更改なら1年半程度を想定していましたが、構想から正式稼働までで約8カ月と、かなり短縮できました。
半場氏は、ServiceNowの今後の活用について、「人事関連やファシリティ、パソコンの申請など職員向けのサービスはもちろんですが、日常的に発生し相当な負荷がかかっている定型的な業務をBPRしながらプラットフォームに乗せ換えていくなどどんどん利用範囲を広げていきたい。将来的には、お客様向けサービスなど、事業のための活用が広がることも期待しています」と語ります。
刷新された「汎用ワークフロー」の利便性を体感したことで、職員のデジタルに対する興味と活用意欲は高まっているそうです。
デジタル変革をきっかけに、職員の意識や組織風土を変革したいという農林中金の狙いは実を結びつつあるようです。
半場氏は、「パーツや“モジュール” を組み合わせるだけであらゆる業務アプリが簡単に作れるServiceNowの利点を生かしながら、全社的な変革を推し進めていきます」と語りました。