ServiceNowに電子署名ツールをAPI連携。申請用紙の使用が約9割削減
必要な部品がそろい、JavaScriptにも対応したServiceNowをベースに従業員ポータルを1カ月で開発
ServiceNowでグループポータルを刷新。洗練されたデザインでUXを飛躍的に改善
レガシーなIT環境の再整備を一気に加速させる
「いつでも、どこでも、一人でも多くの人においしいコーヒーを届けたい」という創業精神の下、コーヒーに関わるすべての事業を世界21カ国・88拠点で展開するUCCグループ。世界初(*)の缶コーヒー販売や、真空包装レギュラーコーヒーの製造を業界に先駆けて開始するなど、常に時代の最先端を走り続けてきました。
このように、ビジネスにおいては非常に先進的なUCCグループですが、ことITに関してはやや遅れている感が否めなかったそうです。2019年9月にUCCホールディングスに着任した同社 執行役員CISOの黒澤俊夫氏は、社内で使われているIT機器やシステムが「数年は遅れていると実感した」と振り返ります。
そこで黒澤氏は20年1月、IT環境刷新プロジェクトを正式に始動。いくつものプロジェクトを同時に走らせ、様々な環境を短期間で一気に変えました。その1つが、ServiceNowによる従業員エクスペリエンス改革です。UIが複雑で、使い勝手が悪かったグループポータルを、利用者目線に立ち、使いやすく整備しました。
黒澤 俊夫 氏
執行役員 CISO
UCCホールディングス株式会社
クラウドファースト、モバイルファーストを目指す
黒澤氏が目指したのは、とにかく「使い勝手の良いIT」です。その当時、例えば稟議や申請を社外で承認する場合、いったんパソコンを立ち上げ、VPNに接続し、社内システムの承認フロー画面を開かないと処理ができませんでした。何度もパスワードを入力し、いくつもの操作をしなければならなかったのです。
「最新のデジタルソリューションなら、インターネットに常時つながっているタブレット端末で稟議や申請をチェックし、そのままボタン一つで承認が完了するという便利な仕組みが作れます。そんな仕組みにどんどん置き換えていこうと考えました」(黒澤氏)
インターネットセントリックで、クラウドファースト、モバイルファーストなIT環境の実現。それが、黒澤氏が思い描く理想像でした。
手始めに足回りのネットワークからVPNをなくし、インターネットとSaaSを使って、社外にいてもオフィスにいるのと同じように業務が行えるゼロトラスト・ネットワーク環境を整えるところからスタートしました。テレワークを可能にするための環境整備です。
さらに同社は、クラウドファーストなIT環境を実現するソリューションとして、様々な最新デジタル技術でワークスタイルを大きく変革するServiceNowを導入しました。
「使いやすいIT環境を目指す」ため、ServiceNowを導入
黒澤氏がServiceNowに興味を抱いたのは、社内で利用されているいくつものアプリケーションを、1つのプラットフォームに統合できる点に魅力を感じたからです。
「ユーザーがシステムを利用する際に、用途ごとに違うシステムの様々な入力画面操作を覚えるのは面倒ですし、作業効率も悪い。その点ServiceNowなら、ServiceNowをハブにしたシステム連携が容易に作成できるため、入力画面を統一していくことができます。効率が上がるだけでなく、ユーザーエクスペリエンスも高まるので、『使いやすいIT環境を目指す』という目的にかなっていると思いました」(黒澤氏)
また、JavaScriptで開発ができるため、様々なアプリケーションが簡単に作れそうだと評価したことも選定のポイントとなりました。
カッコいいグループポータルへ、ServiceNowで全面刷新
導入に当たってServiceNowのデモを確認した黒澤氏は、その中で、ポータルのデザインが非常に優れていることに感銘を受けたそうです。
「ひと言で言うと、シンプルでとてもカッコいいという印象でした。常々、当社のグループポータルはあまりデザインが良くないと感じていたので、手始めにポータルを改善するところから利用してみてはどうかと考えました。何かを変えるときには、ユーザーが『おおっ!』と驚くほど劇的に変えたほうが効果は大きい。ServiceNowのポータルを見たときには、まさにその効果が期待できると感じました」と黒澤氏は説明する。
従来のUCCグループのポータルは、各事業会社がいろいろな情報を詰め込みすぎて、関係のない情報も多く、どこに何があるのか分からない状態でした。
「旧来のグループポータルは見た目の印象が雑然としていて、欲しい情報を探すのが困難でした。もっとすっきりして使いやすいポータルにするため、各事業会社の担当者と話し合いを重ねて不要な情報を削り落としました」と明かすのは、UCCグループのシステム子会社であるユーコット・インフォテクノのICT & デジタル本部 UXデザイン マネージャーの大森晋介氏です。
目に見える変化が、従業員エクスペリエンスの改善欲求を促す
20年9月に刷新されたグループポータルは、見違えるほどシンプル、かつ洗練されたデザインに生まれ変わりました。目に見える変化が起こったことで、従業員のユーザーエクスペリエンス改善への欲求も次第に高まりました。まだ変わっていないシステムも、どんどん変えていくべきだというチェンジマインドが起こったのです。そうした従業員の意識変化が、UCCグループのデジタル改革を加速させることになりました。
そこで、グループポータルの刷新に続き、ServiceNowを使って社内申請用のワークフローを整備しました。従来は稟議等の重要なワークフローだけがSharePointで実装されており、それ以外のほとんどの申請は紙によって行われていました。これをオンライン上で処理できる仕組みに刷新したのです。「手続きの煩雑さが解消されただけでなく、電子署名を利用することによる印紙税の削減、154万9000枚あった紙申請の使用が約9割も削減されるなど、ペーパーレス効果も表れています」と大森氏は語ります。
さらに22年7月には、ServiceNowの人事関連ソリューションであるHR Service Delivery(HRSD)を使って、結婚や出産、異動といったライフサイクルイベントの申請などを行うための従業員ポータルを新設しています。
この従業員ポータルの開発に当たって、人事部門の担当者や社内ユーザーなどを集めたワークショップを開催しました。当事者たちの意見を基に、ポータル上で行う申請手続きをなるべく簡素化して、ユーザーエクスペリエンスを高めるためです。
オペレーションセントリックではなく、ユーザーセントリックに
黒澤氏が目指したのは、「オペレーションセントリック(業務目線)ではなく、あくまでもユーザーセントリック(ユーザー目線)にこだわった従業員ポータルの実現」です。「一般にポータルやシステムなどを構築する際には、処理をする部門の業務効率ばかりを優先し、ユーザーの使い勝手は二の次にされやすい傾向があります。新設する従業員ポータルでは、この問題をなくすため、関係者を集めたワークショップを開いて、『どうすればユーザーにとって使いやすいポータルになるか?』を討論したのです」(黒澤氏)
ServiceNowの担当者も招いて開催したワークショップは全10回にも及びました。大森氏は、「ServiceNowの方々は、他社ではどのようなポータルが作られているのかという事例を示しながら、話し合いをサポートしてくれました。おかげで社内の常識に凝り固まりがちな発想が柔軟になり、実りのある議論になったと思います」と振り返る。
黒澤氏は、ServiceNowを使った今後のIT環境整備について、「ServiceNowはグロー バルなプラットフォームなので、国内だけでなく、海外のグループ会社にも広げていき たい」と語ります。現在、グローバルプラットフォームの構築に向けて。データプラット フォーム、ERPプラットフォーム、アプリケーションプラットフォームの『3大プラットフォー ム構想』を進めていますが、「ServiceNowには、アプリケーションプラットフォームの 一翼を担うソリューションとして期待しています」と明かしてくれました。