可観測性とは、出力に基づいてシステムの状態を把握することを意味し、監視とは、測定基準をトラッキングしてシステムの健全性を評価することを意味します。
ビジネスと情報技術が相互に関与する限り、企業はその規模や形態を問わず、業務の基盤となるコンピューターシステムを理解、評価、最適化するため、より正確な手段を求め続けてきました。 1980 年代後半にはすでに、インタラクティブなリアルタイム監視ツールが組織の IT 健全性とパフォーマンスの追跡に利用されていました。 しかしデジタル技術の進化に伴い、ビジネスシステムも同様に堅牢性、分散性、複雑性が増し、組織にとって新たな課題が生まれています。
具体的に言うと、どうすれば企業はデジタルシステムで何が起こっているのかを正確に把握するために、動的な分散環境全体で数十億件にもなりうるデータポイントを考慮して集計することができるのかという課題です。
従来、監視は IT 管理の定番手法であり、システム内のさまざまなコンポーネントの健全性とパフォーマンスに関する貴重なインサイトを提供していました。 ところがテクノロジーの急速な進化に伴い、監視だけでは今日の IT 環境の複雑さに対応するために必要な包括的な理解を提供することができなくなりました。 そこで活躍するのが可観測性です。
現代の IT 環境を管理する上での課題と複雑さに対処するために、監視と可観測性は不可欠な手法です。 どちらも、複雑なシステムに関するインサイトを提供するという目的は同じですが、アプローチとメリットに明確な違いがあります。
監視とは、IT 管理と DevOps の文脈では、システム内のさまざまなコンポーネントからデータを体系的にトラッキングして収集するプロセスを指します。 監視は事前定義された測定基準とデータポイントを通じて、重要なリソースの健全性、パフォーマンス、可用性をリアルタイムで可視化することを目的としています。 この方法により、IT チームは潜在的な問題、異常、パフォーマンスのボトルネックを特定して予防的な対策を講じることで、システムの安定性を維持してダウンタイムを最小限に抑えることができるようになります。
監視の主なメリットは次のとおりです。
- アラートとインシデント応答
監視システムにはアラートメカニズムが装備されており、特定のしきい値や事前定義された条件の違反が発生した場合に IT チームに通知して、早急な対応が必要になる可能性のある潜在的な問題を示します。 - 履歴分析
監視により、貴重な履歴データが生成されます。これを使用して、傾向の追跡、インシデント後の分析、キャパシティ計画と今後の改善のための情報に基づいた意思決定を行うことができます。
一方、可観測性は、複雑なシステムを理解するためのより包括的で全体的なアプローチを表します。 監視は具体的なデータポイントと測定基準を提供しますが、可観測性は、外部出力に基づいてシステムの内部状態についてインサイトを得る能力に焦点を当てています。 つまり、「なぜシステムはこのように動作しているのか?」という問いに対する答えようとします。 可観測性は、より包括的にシステムをとらえ、IT の動作を個々の部分だけでなく全体として把握できるようにします。
そのため、可観測性がもたらすメリットは、監視に関連するものとは異なります。 たとえば次のようなメリットです。
- コンテキストリッチなインサイト
可観測性は、コンテキストリッチで完全に相関した情報を重視し、さまざまなシステムコンポーネント間の関係と相互作用をより深く理解することを可能にします。 これにより、単に問題が存在するという通知を受け取るだけでなく、潜在的な問題の根本原因を簡単に特定できます。 - 想定外の発見
事前定義された測定基準に基づいて動作する監視とは異なり、可観測性は未知の問題やパターンを検出できるため、チームはすでに把握しているもの以外に目を向けることができます。 - 変化への適応性
マイクロサービスやコンテナベースのシステムなどの急速に進化する環境では、組織は可観測性によってシステムのアーキテクチャやインフラストラクチャの変更に備えて適応できます。これは、複雑で分散した環境で作業する際に不可欠な要素です。 - パフォーマンスの最適化
収集された測定基準を分析することで、IT 担当者は効率性や利用率が低い領域を特定し、ターゲットを絞ったパフォーマンスの最適化とリソースの割り当てが可能になります。
可観測性と監視にはほぼ同じ使命があります。それは、問題の特定により、組織が複雑な IT システムを理解して管理できるようにすることです。 この 2 つのアプローチは同じコインの表と裏のような関係かもしれませんが、両者の違いこそがそれぞれの特徴を表します。 どちらも目標を達成するために特定の過程をたどり、独自のインサイトを提供します。DevOps と IT のマネージャーはこのインサイトにより、アプリケーションとシステムの透明性を向上させることができます。
可観測性と監視の最も重要な違いは次のとおりです。
- データ収集アプローチ
監視は通常、事前定義された測定基準と特定のデータポイントに焦点を当てますが、可観測性はよりオープンエンドなアプローチを採用し、さまざまなデータストリーム、ログ、トレース、イベントを収集できます。 観測可能なシステムが生成する内部状態についての関連データは、システムの現在のステータスを推測したり、起こり得る問題の根本原因を発見したりするために使用できます。 - インフラストラクチャ
データセンターなどの従来のインフラストラクチャソリューションではパフォーマンス追跡のために監視に依存する傾向がありますが、クラウド環境やその他の最新のインフラストラクチャでは可観測性が重視されています。 可観測性は従来のアーキテクチャと最新のアーキテクチャの両方に適用可能であり、また適用すべきですが、監視は最新のインフラストラクチャによって生成されるデータ量に対処しきれないことも多く、可視性の盲点につながることがよくあります。 - 因果関係と相関関係
監視はイベントと測定基準の相関関係を示し、可観測性は因果関係を確立しようとします。 簡単に言えば、監視には測定基準を注意深く監視するため、何かが正常に機能していない場合や他の問題が発生した場合に DevOps チームに通知するために使用されますが、問題の中心にある実際の課題を特定するにはそれほど効果的ではありません。 可観測性により、IT チームはシステムの動作の背後にある「理由」を理解できます。 - 予測可能性と適応性
監視の事前定義されたしきい値は予測可能性につながりますが、可観測性の動的な性質は、予期していない変化や複雑さへの適応に向いています。 - 詳細度
データ収集の監視には、通常、ホストにエージェントをインストールし、外側から内部を見る視点から測定基準をキャプチャする必要があります。 反対に可観測性は一般的にコードレベルで計測され、監視では達成しにくいレベルの詳細度を提供します。 これにより、個々のコンポーネントとサービスの動作に関する深いインサイトが得られます。
監視は、コンピューターシステムの健全性とパフォーマンスに関するリアルタイムのインサイトを提供する上で常に重要な役割を果たしてきました。現在もその役割を担っています。 体系的なデータ収集と分析プロセスを通じて、監視は IT プロフェッショナルが潜在的な問題を検出できるようにし、最適なシステム運用を維持するための戦略に情報を提供します。
このプロセスは、次の手順で進みます。
監視には、システムの全体的な状態を反映する重要な測定基準とイベントをキャプチャするためにシステムからのデータ収集が伴います。 このデータを収集するために、監視エージェントがシステムにインストールされます。 これらのツールは、システムの健全性とパフォーマンスのインジケーターとして機能する事前定義済みの測定基準またはイベントの収集を担当します。
監視エージェントによって収集されたデータは、一元化された監視ツールまたはプラットフォームに送信され、そこでさらに分析されます。 監視ツール内で、収集されたデータが事前定義されたしきい値またはベースラインと比較されます。 これらのしきい値は、システム内で通常の動作と見なされるもののベンチマークとして機能します。
監視対象の測定基準またはイベントが確立されたしきい値から逸脱すると、監視ツールはこれらの潜在的な問題や異常を特定します。 問題の検出に応じて、監視ツールはアラート通知をトリガーし、通常はシステム管理者または DevOps チームに送信します。 これらのアラートは早期警告としてさらなる調査と問題の迅速な解決を促します。
監視はさまざまなレベルで適用できますが、各レベルには次のような特定の重点が置かれます。
- インフラストラクチャの監視
このレベルでは、ハードウェアリソース、ネットワークコンポーネント、仮想マシンの健全性とパフォーマンスを評価します。 - アプリケーションの監視
これは、ソフトウェアアプリケーションとサービスの動作とパフォーマンスの監視に焦点を当てています。 - ユーザーエクスペリエンスの監視
このレベルでは、エンドユーザーエクスペリエンスに関するインサイトを提供し、応答時間とユーザーインタラクションを測定します。
可観測性は、さまざまなソースからデータを収集して分析し、システムの動作を包括的かつ動的に把握することで機能します。 この包括的な理解により、エンジニアは、複雑な分散システムやアプリケーションにおいても、問題の根本原因を特定し、迅速なトラブルシューティングを行い、システムのパフォーマンスと信頼性を向上させることができます。
可観測性プラットフォームでは、システム出力の収集と分析にさまざまなプロセスを使用する場合があります。特に革新的なアプローチでは AIOps と機械学習機能を使用して関連性の高いデータを重要度の低い情報から区別します。 しかし、どの方法論を用いる場合でも、可観測性へのアプローチのほとんどは、次の 3 つの重要な柱に焦点を当てています。
ログ (最も古い形式のテレメトリ) は、システム内のイベントの詳細な記録であり、ユーザーのアクション、エラー、警告、システムイベントに関する情報をキャプチャしたものです。 これらのテキスト表現は貴重な履歴の痕跡を提供し、エンジニアはシステム内で時間の経過とともに起きる一連のアクションと発生を理解できます。 ログはデジタル時代の初期からあったものですが、今でも可観測性調査において重要な要素と見なされています。
測定基準は、システムパフォーマンスに関連する定量的測定値を収集したものです。 この測定には、CPU 使用率、メモリ使用率、ネットワークトラフィック、応答時間などが含まれます。 測定基準を監視することで、IT 専門家はシステムの動作とパフォーマンス、潜在的な問題の発生源に関するリアルタイムのインサイトのメリットを得ることができます。
トレースは、トランザクションがシステム内を通過するときに起きる、システムのさまざまなコンポーネント間のインタラクションをキャプチャしたものです。 このインタラクションには、ユーザー要求、API 呼び出し、サービス呼び出しなどが含まれます。 トレースは、エンジニアがシステム全体のトランザクションのパスを視覚化し、潜在的なボトルネックや改善の余地がある領域を明らかにするのに役立ちます。
ログ、測定基準、トレースの相乗効果が可観測性の基盤を形成します。 これらのコンポーネントはそれぞれシステムの動作に関する独自のインサイトを提供するため、IT 専門家はアプリケーションとインフラストラクチャの全体像を包括的に捉えることができます。
可観測性は、複雑なシステムを包括的に理解するための強力なアプローチですが、課題がないわけではありません。 これらの障害を克服することは、システム動作の根本原因を把握し、システムとアプリケーションのインサイトの可能性を最大限に活用するために不可欠です。
さらに顕著な課題には、次のようなものがあります。
可観測性は、マルチクラウド環境とマイクロサービスの動的な状況をより明確に把握するために開発されましたが、必ずしも欠点のないプロセスではありません。 可観測性を複雑なシステムに実装することは困難な場合があります。分散システムやコンテナは入り組んだ性質を持つため、さまざまなプラットフォームでデータを集約する専用ソリューションが必要です。 このような複雑なインフラストラクチャで可観測性を実現するには、慎重な計画とカスタマイズされたソリューションを使用して、システムの動作の全体像を把握する必要があります。
可観測性は大量のデータを生成するため、可観測性戦略を実用的なインサイトに変える責任を負う DevOps やその他の IT チームの負荷が大きくなりすぎる可能性があります。 適切なプラットフォームとサポートツールがなければ、このようなデータフローはすぐに手に負えなくなります。
効果的な可観測性を実現するには、DevOps、エンジニアリング、ビジネスの各チーム間のコラボレーションが不可欠です。 チームが個別に運営されるとツールの無秩序な増加につながり、エンジニアリングの時間とコストが増加する可能性があります。 残念ながら、既存のデータとインフラストラクチャのサイロ化が、統一された可観測性ソリューションの実装の妨げになることがあります。 こうしたサイロを解消し、協力を促進することは、可観測性の潜在能力を最大限に活用するための鍵です。
現代のインフラストラクチャの複雑化に伴い、組織の特定のニーズに対応する理想的なツールを見つけることがこれまで以上に重要になっています。 可観測性と監視のツールを評価する際に考慮すべき重要な要素は次のとおりです。
- データの収集と連携
効果的なデータ収集は、可観測性と監視の両方の基盤となります。 さまざまなソース (ログ、測定基準、トレースなど) からデータを収集できるツールやフレームワークのみを検討してください。 また、これらのソリューションは、オンプレミス、クラウドベース、ハイブリッド環境など、さまざまなタイプのプラットフォームと連携して、組織の IT システムのリアルタイムの統一ビューを作成できる必要があります。 - 分析と可視化
可観測性と監視のソリューションの高度な分析機能は、システムのパフォーマンスと信頼性に影響を与える可能性のある傾向、パターン、異常を明らかにできます。 最も効果的なツールセットは、直感的でインタラクティブなデータ可視化も実現し、IT チームが複雑な情報を一目で解釈できるようにします。 - 拡張性と一貫したパフォーマンス
インフラストラクチャの進化とデータ量の増加に対して、可観測性と監視のツールは拡張が容易で組織の成長に対応できるものでなければなりません。 高性能なソリューションは、動的システムのデマンドに対応し、正確性を損なうことなくリアルタイムのインサイトを提供する必要があります。 - 強力なコミュニティとサポート
オープンソースソリューションでは、アクティブなコミュニティが貴重なインサイト、リソース、サポートをユーザーに提供することが多く、ツールの全体的な有用性を強化し、より効果的なトラブルシューティングとユーザーのセルフサービスを可能にします。 これらのオープンソースソリューションを最大限に活用するには、強力なコミュニティと信頼できるサポートが不可欠です。 検討中のツールに関するコミュニティやユーザーベースを確認すると良いでしょう。 - 使いやすさとトレーニングリソース
分かりやすいインターフェイスと包括的なトレーニングリソースは、ツールの有効性に大きな影響を与える可能性があります。 さまざまな技術的背景を持つユーザーが利用でき、習熟度を高めるための教材を提供するツールを探しましょう。
監視は、事前定義された測定基準を通じてシステムの健全性とパフォーマンスをリアルタイムに可視化しますが、可観測性への適切なアプローチはより包括的なアプローチとなり、外部出力に基づいてシステムの内部状態に関するコンテキストリッチなインサイトを提供し、組織や企業が依存するコア監視ワークフローも扱います。これらの手法を組み合わせることで、IT チームは最新の事業運営の課題に対応するための包括的なツールキットを入手できます。残念ながら、複雑な分散システムで可観測性を実現するには、独自の課題があります。これらの課題に対処するため、ServiceNow は Cloud Observability を導入しました。
Cloud Observability は、重要なテレメトリデータを単一のソリューションにまとめ、重要な事業運営とのシームレスな連携を促進します。 問題を簡単に特定し、機能停止を予防的に回避し、収益を保護しながら、顧客満足度を向上させます。 直感的なダッシュボード内で作業し、統一されたクエリ言語を活用し、相関エンジンを適用して平均復旧時間 (MTTR) を短縮します。これらすべてが一元化されたプラットフォーム上で行われ、重要なシステムデータについて包括的な単一の信頼できる情報源を実現します。