KPMG UK 社に入社した際、現在グループ最高情報責任者である Kevin Baxter 氏は重大な決断を迫られていました。
当時、同社は複数のプレッシャーが重なる状況に直面していました。サービスデスク、アプリケーション、インフラストラクチャのサポートを提供する同社最大規模のマネージドサービス契約のいくつかが、まもなく満了を迎えようとしていたのです。また、KPMG 社では、データセンターの閉鎖、クラウドへの移行、英国とスイスの事業体の欧州グループへの統合といった取り組みも進められていました。
Baxter 氏にとって、これは同社が社内サービスをどのように提供するかを再考する好機であり、現在の IT サービスモデルを更新すべきか、それとも将来を見据えて再設計すべきかを考えることになりました。
「大規模なマネージドサービス契約が終了し、新たな契約の締結に臨む時、それはまさに一度きりのチャンスなのです」と Baxter 氏は言います。「そのときに、チャンスを逃さず確実に掴まなくてはなりません」。
AI を活用したサービスデリバリのビジネスケースの構築
KPMG UK 社は、英国とスイスにまたがる総売上高 44 億ドルのグループの一員として運営されており、27,000 人の従業員を擁しています。その中には、稼働時間が直接収益となる有償コンサルタントも含まれています。
しかし、コンサルタントは、IT サポートが必要になったときに、多くの場合はそれまでのワークフローからいったん離れ、ポータルサイトにアクセスし、チケットを送信し、その後要求が複数のチームを経由する間、待機する必要がありました。こうした中断のたびに、クライアント対応業務から離れることになり、ビジネスのコスト増を生じさせていました。
コストの規模が大きな課題となっていたため、このビジネスケースは軽視できませんでした。毎月約 8,000 件のインシデントが処理されていたため、自動化やチケット転送回数のわずかな改善でも、大幅なコスト削減につながる可能性がありました。KPMG 社がマネージドサービス契約を再交渉する際には、新しい運用モデルは財務的にも成立するものである必要がありました。
Baxter 氏は、ソーシング戦略よりも先に技術戦略を策定しなければならないと結論付けました。KPMG 社ではまず、サービスデリバリの自動化と簡素化が可能であることを証明し、その結果を考慮してマネージドサービスの購入方法を再構築する必要がありました。
ServiceNow IT Service Management の価値アセスメントにより、AI がインシデント管理を変革し、日常的なサポート要求の量をどのように低減できるかを明らかにできました。
この評価結果は、Baxter 氏が予想していたことを裏付けるものとなりました。AI は、サービスデリバリを簡素化し、従業員エクスペリエンスを向上させ、マネージドサービスの経済性を再構築することができるのです。ServiceNow こそが、それを実現するためのプラットフォームでした。
チームは 1 つのエージェントを展開する前に AI ファーストのサービスモデルを定義
KPMG 社の ServiceNow Product Owner を務める Dipika Mistry 氏は、戦略を現実のものにする取り組みを主導しました。チームが行ったのは、単に新しいテクノロジーを展開することではありません。新たに統合された英国とスイスのビジネス全体で従業員を結集し、確立済みのサービスプロセスを再考して、それまで持っていなかった AI スキルを構築しました。
「重視したのはプロセスで、AI テクノロジーそのものではありません」と、Mistry 氏は述べています。
これらの設計を有効な AI に変えるには、新たなスキルが必要でした。AI の経験がない開発者は、1 週間の集中的な AI スプリントに参加して、プロンプトエンジニアリングを学び、テストを通じて AI エージェントを改善し、ServiceNow のエキスパートと協力してアーキテクチャに関する意思決定を行いました。1 週間の終わりには、テストできる有効なエージェントを完成させていました。
展開は意図的に低リスクで実施されました。KPMG 社は、既存のプロセスを一夜にして置き換えるのではなく、新旧のアプローチを並行して実行し、従業員が AI を活用したエクスペリエンスを採用するか、使い慣れたワークフローを使用し続けるかを選択できるようにしました。
「当社は社員に根拠なき信頼で前進するようなことを求めませんでした」と、Baxter 氏は言います。「2 つのアプローチを比較して、どちらが最も有効であるかを判断させました。それが新しいエクスペリエンスへの確信を高めるのに役立ちました」。
AI 初心者のチームがエンタープライズ規模の展開へ
4 月 30 日から 9 月 1 日までのわずか 85 営業日で、KPMG 社は 22 件の AI ユースケースを本番環境で稼働させました。これらはすべて、当初 AI の経験がなかった社内チームによって構築されたものです。
その成果は即座に現れました。AI エージェントを展開して大量のサポート要求を解決することで、KPMG 社は新しいマネージドサービス契約にかかるコストを数百万ポンド削減できました。それと同時に、より迅速で一貫性のある IT サポートを提供できるようになりました。この新しい運用モデルにより、サポート体制は 24 時間 365 日体制へと拡張され、将来の成長に向けた多言語対応の基盤も整いました。
従業員は、Microsoft Teams でメッセージを送信するだけで、簡単にサポートを受けられるようになりました。ServiceNow ポータルを操作したり、フォームに入力したり、保留を待ったりすることなく、ServiceNow AI Agent と直接チャットします。AI Agent は、ユーザーが誰でありどこにいるか、使用しているデバイスの健全性はどのような状態かといった情報をすでに把握しています。日常的な問題の多くは、人間の介入なしに即座に解決され、業務の中断は最小限に抑えられます。
この取り組みの有効性の最も有力な裏付けは、思いがけないところから得られました。定期的なグループ経営会議の中で、サービス保証リーダーが、質問されているわけでもないのに、Now Assist によってチケットデータの品質と解決メモがすでに改善されており、チームが長い間達成に苦戦していたサービス改善目標の進捗に貢献していると報告したのです。
「これは本当に驚きました」と Mistry 氏は言います。「当時、私たちはそのチームに構築中のシステムについてまだ情報を共有していませんでした。ですから、彼らが自発的に改善点を説明してくれたのを聞いて、私たちが認識していた以上に広範な影響を与えているのだと実感しました。」
その舞台裏では、ジャーニー全体に組み込まれた ServiceNow Impact が、ユースケースの優先順位付けフレームワークを応用して最も高いリターンが見込める機会を順序付けし、KPMG 社が独自に拡張できるガバナンスのサイクルを確立して、チームがアーキテクチャの課題に取り組むことを支援していました。
「彼らは単に『これは貴社の問題です』と言うようなことはありませんでした」と Mistry 氏は語ります。「ServiceNow のチームは私たちと密接に連携し、確実に機能する設計の構築を支援してくれました。これこそ真のコラボレーションです」。
この移行に着手してから 6 か月後、KPMG UK 社は、すでにどのような変化があったかを示す証拠を携えて、アウトソーシングベンダーとの交渉に臨みました。このベンダーとの交渉では、根本的に異なる需要プロファイルが反映され、これにより KPMG 社ははるかに高いレベルの自動化に基づいたマネージドサービスを購入できるようになりました。
IT はもはや間接費ではなく KPMG 社がクライアントに提示する概念実証に
これは社内の IT 変革だけにとどまりませんでした。
KPMG 社は ServiceNow グローバルエリートパートナーであり、初のグローバルコアビジネスサービス年間優秀パートナーに選出されました。同社は、さまざまな業界のクライアントに ServiceNow ソリューションのアドバイスや実装を行い、AI とローコードテクノロジーを活用して組織が運用を改善するのを支援しています。KPMG UK 社は社内サービスモデルの再設計に着手したことで、そのプロジェクトが、同社がクライアントに提供する業務についての、実稼働中のエンタープライズ規模での概念実証にもなりました。
「私たちの目標は、現代のプロフェッショナルサービス企業はどのように運営されるべきかという金字塔を確立することです」と、Baxter 氏は述べています。「AI ファーストであり、過去の慣習ではなく、未来に向けて設計された職場。単に従業員にサービスを提供するだけでなく、クライアントに向けて当社の業務内容を例示するプラットフォーム。クライアントゼロをこれらで実現。それが KPMG です。」
現在、KPMG 社はエンタープライズ規模での AI 導入に関する実体験を備えて市場に参入しています。単にクライアントに AI に関するアドバイスを行うだけではありません。KPMG 社は、その取り組みを自ら実践し、そこから学びを得て、アプローチを洗練させてきました。その社内変革こそが、実証となったのです。
IT 部門での成功が現在では組織全体のブループリントに
これまで生産性の向上は、インシデントの処理と解決を担当するサービスデスクに集中していました。KPMG 社の英国とスイスの 27,000 人の従業員を対象とした、より広範な従業員エクスペリエンスの変革が、フェーズ 2 として現在進行中です。ロードマップは現在、AI コントロールタワー、そして 2026 年以降を見据えた形式に縛られない AI ファーストの職場を目指す Baxter 氏のビジョンにまで拡大しています。
「ServiceNow を活用することで何が可能かを、IT 部門で示しました」と Mistry 氏は述べています。「次は、その同じ原則を全社的に適用していく段階です。」
Baxter 氏がこの変革から得た教訓はシンプルです。
「まず、目標とする成果を定めることから着手します。そこから逆算して取り組み、迅速に実証します。これにより、より大きなビジョンを描く権利を勝ち得ることができます」。