総合乳業メーカーである森永乳業株式会社(以下、森永乳業)は、持続可能な成長の基盤を築くべくDX戦略とDX人財の育成を推進しており、その第一歩としてIT部門におけるシステム運用業務の変革を進めています。まずは2022年にServiceNowのITOMを導入し、構成管理の劇的な改善を実現しました。それから3年が過ぎた2025年4月、満を持してITSMの導入を進めている過程にあり、問い合わせ対応の状況確認など大幅な工数削減が見込まれています。
DX戦略の第一歩としてシステム運用業務の変革から開始
牛乳、飲料、ヨーグルト、アイス、チーズをはじめ、育児用ミルク、流動食や森永乳業が50年以上研究を続けるビフィズス菌BB536など幅広い商品を展開している森永乳業。「かがやく“笑顔”のために」というコーポレートスローガンのもと、心とからだの両面から人々の健康を支え、食のおいしさと楽しさを提供することで、豊かな社会の実現を目指しています。
そんな森永乳業が、近年注力しているのがDX戦略です。
同社 コーポレート戦略本部 IT改革推進部 部長の鳥居 雅氏は、その背景を次のように語ります。
「多くの食品企業の例に漏れず、弊社にも変化に慎重な組織風土があります。お客様に安全・安心な商品を提供するという責任から保守的になりがちで、結果としてデジタル活用があまり進んでいませんでした。営業活動をはじめ生産現場のオペレーション、バックオフィス業務にも、まだ多くのアナログ作業が残っていました」
競争力を維持し、さらなる成長のため、同社は2024年にDX方針を掲げ、本格的な変革に乗り出しました。「DX推進グループ」を新設し、各事業所を周り「森永乳業にとってのDX」を丁寧に説明するところからスタートしました。
「デジタル技術を積極的に活用し、業務プロセスを自動化・効率化してコスト構造改革を図るとともに、膨大なデータからお客様の潜在ニーズを把握し、商品開発に生かすことで顧客価値の向上を目指しています。守るところは守りつつ、挑戦し続ける組織風土に変えていくことがDX戦略のポイントです」(鳥居氏)
さらに、同社は「森永DXアカデミー」という独自の教育制度を立ち上げ、DX人財の育成にも着手し、段階的にデジタル人財を育成する仕組みを整備して、変革を支える人づくりにも本腰を入れています。
このDX戦略の第一歩として、まずはIT部門におけるシステム運用業務から変革を進めるべく、森永乳業は2022年にServiceNowのIT Operations Management(ITOM)を導入しました。
「弊社内でも数多くのITシステムが稼働していますが、運用体制はシステムごとにサイロ化しており、チーム間の情報共有もあまり行われていない状況でした。この問題を解決するには、全社IT資産の情報を一元管理する仕組みが必要でした」(鳥居氏)
さらに同社 コーポレート戦略本部 IT改革推進部 戦略企画グループ アシスタントマネージャーの織田 翔氏が、このように続けます。
「特に大きな課題となっていたのが構成管理です。各システムの運用チームに定期的にヒアリングした情報をExcelの台帳に入力して管理するという方法が取られており、調査に膨大な工数が発生するとともに、情報の鮮度を保つことも困難でした。ソフトウェアのサポート切れやパッチ適用の遅れなどセキュリティリスクを見逃す恐れもあり、この対策のためにITOMを優先して導入することになりました」
ITOMによって構成管理の信頼性を向上
実際にITOMは、森永乳業における構成管理を劇的に改善しました。保有する全てのIT資産をDiscovery機能によって自動的に検出し、構成管理データベース(CMDB)を最新状態に保つため、従来のような各運用チームに対する個別のヒアリングや、Excel台帳への手作業でのデータ入力・管理は一切不要となります。
「社内データセンターやクラウド上では現在約250台のサーバが稼働しており、従来のヒアリング調査では1台あたり約1時間、トータルで250時間を要していました。この煩雑で負担の重い作業工数が全て削減されています。また、CMDB上で管理されている情報の鮮度や正確性も格段に向上し、構成管理の信頼性を高めています」(織田氏)
ITSM導入で目指す、IT部門の業務改革と挑戦する組織風土の醸成
もっともCMDBだけでは、実現できることに限界があります。そこで森永乳業は2025年4月、当初から目指していたIT部門の抜本的な業務改革の“本丸”とも言うべき、ServiceNowのIT Service Management(ITSM)の導入・構築に踏み出しました。その背景には、IT部門の業務改革と、全社で推進するDX人財育成という2つの大きな狙いがありました。
「ITSMが提供する機能を総合的に活用し、システムごとにサイロ化していたチーム間の連携を強化して、ばらばらだった管理指標を統一します。同時に、全ての運用アクティビティを記録してノウハウを可視化することで、経験の浅いメンバーでも一定の品質で業務を遂行できる、チーム全体の対応力を底上げしていきます」(鳥居氏)
従来、同社ではリリース基準やワークフローが各チームに委ねられて品質が安定しない、障害対応のノウハウが一部のベテラン社員に集中・散逸してしまうといった課題がありました。ITSMの変更管理でリリース判定の基準を統一するとともに、インシデント管理やナレッジ管理によって対応履歴やノウハウを誰もが検索・活用できる形で蓄積していきます。
この取り組みは、独自に設けた教育プログラム「森永DXアカデミー」などを通じて全社的に推進するDX人財の育成とも深くつながっています。ITSMを通じた業務の標準化やナレッジの可視化は、アカデミーの学びを実務へとスムーズにつなげる役割を果たしています。
「我々IT部門が全てを対応するのではなく、ユーザー自身が自分の状況を把握し、自律的に動けるようにしたいです。その意味でもITSMは、単なるツール導入にとどまらず、企業風土そのものを変える取り組みだと捉えています」(織田氏)
ServiceNowが提供している業界標準の業務プロセスをOOTB(Out-of-the-Box)で利用することを基本としつつ、同社の組織体制や監査要件にあわせたワークフローなどをローカライズすることで、この変革の早期実現と定着化を図っていく計画です。
ITSMの稼働開始によって見込まれる効果
森永乳業は2025年11月中にITSMの全ての機能の導入・構築を完了し、翌12月より運用を開始する計画です。この結果、IT資産に対するさまざまな情報への導線が効率化されることによる工数削減が見込まれています。
「例えば、問い合わせの進捗状況をユーザーがセルフで確認できるようになるため、IT部門側での状況確認の工数が減ります。仮に年間3600件程度の問い合わせがあり、状況確認に問い合わせ1件あたり10分かかると想定すれば、年間の削減時間は600時間です。同様に障害状況の確認に要する時間も削減します。こちらも年間100件程度の障害があり、状況確認1回あたり30分かかると想定すれば、年間の削減時間は50時間です。あわせて年間650時間程度の工数削減が実現すると期待しています」(織田氏)
さらにワークフローや情報集約方針の標準化によって、次のような定性的な効果も見込まれています。
まずは品質基準の統一です。チームごとにばらばらだったリリース判定基準が定型化されることで、システム運用品質の均質化が図られます。次にシステムのナレッジの属人化解消です。特定メンバーに依存していた障害対応などの履歴がナレッジとして蓄積され、他のメンバーも簡単に検索可能な形で共有されます。
そして品質指標の取得・評価の標準化です。全社で統一された品質指標を用いることで、システム安定化のための施策を数的根拠に基づいて検討することが可能となります。
さらにその先で見据えているのが、インフラ構築の自動化です。
「社内では年間60台の新規サーバをデプロイしており、水面下でIaC(Infrastructure as Code)ツールを活用することで、その作業の効率化を模索してきました。この仕組みをServiceNowのワークフローに組み込めば、ユーザーは必要なサーバを申請し、上長ならびにIT部門の責任者の承認を受けるだけで、要件を満たした仮想サーバを迅速に調達することが可能となります。これによってユーザー側とIT部門の双方が得られる工数削減の効果も絶大です」(織田氏)
IT基盤の活用と高度化で、持続的成長を支えるDX戦略を加速
3年間にわたり活用してきたITOMおよび新たに導入が進むITSMにより、ITシステムの安定稼働を実現するとともにアジリティを向上することで、森永乳業は持続的成長を支えるDX戦略をさらに加速していく体制を整えようとしています。
「今後は、これらのツールをいかに活用してもらえるかが重要だと考えています」と織田氏は言います。どの機能が実際に活用されているか、使われていない場合の課題は何かを検証しながら、ナレッジの蓄積も進めていきます。次のステップとして、自動化や業務領域の拡大を見据えており、具体的にはServiceNowと他システムとのインテグレーションの活用なども視野に入れています。
鳥居氏は「優れたツールやノウハウは業界でも共有し、非競争領域の効率を高めることで食品業界全体の生産性向上に貢献したいと考えています」と語ります。こうした取り組みこそが、同社のDX戦略を支える原動力でもあり、持続的な成長を実現する鍵となっています。