日本のメガバンクとして、グローバルに事業を展開する三菱UFJ銀行。世界中に広がる海外拠点の事務業務を統括するのが国際事務企画部です。各国・地域の法令や環境に対応しながら、グローバルでの業務標準化や効率化を推し進めたいと考えた同部は、そのためのコミュニケーション手段として、グローバル共通のプラットフォームを構築することにしました。
その基盤として採用したのが、ServiceNowのITSM Professional(以下、ITSM Pro)です。導入の目的は、海外各拠点からの問い合わせの受付および処理を効率化すること。メールのやり取りによる煩雑なコミュニケーションを円滑にするため、ITSM Proを使ったサービスポータルを構築しました。
事務領域における本邦海外間共通のプラットフォーム構築を目指す
三菱UFJ銀行の国際事務企画部は、同行がグローバルに展開する支店や現地法人などの事務業務を企画し、統括する組織です。
銀行業務には、顧客取引を実行する記帳業務をはじめ、様々な事務手続きが伴います。それらの事務手続きをグローバル全体として標準化し、サービス品質を向上させることが同部の大きなミッションです。また、海外事務領域において各拠点が利用するシステムの開発・運用・保守を支援することも重要な役割の一つです。
「事務業務を行う海外支店や現地法人は世界約30カ国に展開し、現地スタッフは約3000人に上ります。各拠点の事務やシステム開発は、原則的にそれぞれの国・地域ごとの法規制や商習慣にのっとりながら行っていますが、グローバル全体で標準化・効率化できる部分はそれを推し進め、コストを抑えつつ、三菱UFJ銀行としてのサービス品質や提供スピードを維持・改善することが我々の役目です」と、語るのは、国際事務企画部 執行役員 国際事務企画部長の溝口直樹氏です。
デジタル活用のための体制として専門チームを発足
三菱UFJ銀行は、本邦海外一体となって事務運営高度化を実現する枠組みとして、2024年4月に「Global Operations」という体制を発足。国際事務企画部はその司令塔を担い、各拠点の事務およびシステム開発の標準化・効率化に取り組んでいます。
この取り組みの支えとなるのがデジタルの活用です。そこで同部は「デジタル&データ(D&D)チーム」という専門チームを発足。生成AIやRPAなどのデジタルソリューションを活用し、事務業務の標準化・効率化を実現するための技術検証を行っています。
そのD&Dチームが中心となって取り組んだのが、事務領域における本邦海外間共通プラットフォームの構築です。「Global Operations」の重要プロジェクトの一つとして23年にスタートしたこの取り組みは、海外各拠点からの問い合わせの受付および処理を効率化することを目的として始まりました。
「具体的には、各拠点が現地の法規制にのっとって開発しているコアバンキングシステム(勘定系システム)の仕様を、グローバルで標準化するためのルールの問い合わせなどに利用できるポータルを構築したいと考えました。従来、そうした問い合わせや返答のやり取りはメールで行っており、処理があまりにも煩雑だったからです」と語るのは、D&Dチームのメンバーの一人である国際事務企画部 エキスパートの大西 慶氏です。
膨大な問い合わせメールへの対応作業に課題を感じる
当時、海外拠点から送られてくる問い合わせメールの数は、1日50~60件に上っていました。
「すべてのメールはいったん海外拠点と共有しているメールボックスに保存されます。問い合わせ内容に応じて処理をする担当者がボックスの中からメールをピックアップし、自チームの担当者に解決を依頼するという流れでした。ボックスを見に行かないと、問い合わせが来ているのかどうかも分からず、場合によってはメールを見逃してしまうことに課題を感じていました」と語るのは、部内公募でD&Dチームの一員となった国際事務企画部 調査役の宮脇智子氏です。
さらに、解決のための作業がどこまで進んでいるのかも見えにくく、拠点から進捗の問い合わせを受けても、回答に時間がかかってしまうことにも課題を感じていました。
これらの課題を一気に解決する方法として、国際事務企画部はサービスポータルの導入を決定したのです。
問い合わせ内容を入力すれば、担当者が自動的に指定される仕組みを構想
構想したのは、各拠点の担当者が問い合わせ内容と照会先のグループをポータル上に入力すれば、アサインされた担当者にその内容や希望回答期日が送られる仕組みです。作業がどこまで進捗しているのかもポータル上で確認できるようにすれば、問い合わせた各拠点の担当者や、受け付けた担当者の業務負荷が低減されると考えました。
この仕組みのための基盤として導入したのが、ServiceNowのITSM Proです。ITサービスに関する問い合わせの窓口を一元化し、デジタルワークフローによって自動的な問い合わせの振り分けや、作業進捗の可視化などが行えるソリューションです。
大西氏は、ITSM Proの選定理由について、「機能が充実していることや、グローバルな導入実績が豊富で、各国の法規制の問題もクリアしており、とくに多くの金融機関が利用している点を評価しました。海外拠点のメンバーも利用するので、グローバルに展開しやすいソリューションである点は重要なポイントでした」と説明します。
年間3000時間の業務削減が目標、FAQによる自己解決も進む
ITSM Proを基盤とするサービスポータルは、24年4月にリリースされました。各拠点からの問い合わせを効率的に処理するプラットフォームということで、「Inquiry Platform」と命名しました。
「システムに関する問い合わせの他、各種事務手続きや事務事項に関する問い合わせができるようにしました。これまでメールのやり取りなどで費やしていた時間を、グローバル全体で年間3000時間削減することを目指しています」と導入効果について語るのは、開発に携わったD&Dチームの一員で、国際事務企画部 調査役の芝沼聡子氏です。
ITSM Proを基盤としたことで、問い合わせや対応の履歴がナレッジとして蓄積されるようになったことも、処理時間の削減に貢献しているようです。蓄積されたナレッジを基にまとめられたFAQを見れば、各拠点の担当者が問い合わせをする前に自己解決できるようになるからです。国際事務企画部は、このポータルをさらに発展させて、システムや事務手続きに関する問い合わせ以外にも活用していくことを目指しています。
「従来はメールにスプレッドシートを添付して行っていた各拠点からの事務計数系の報告なども、ポータルで行っています。ポータル内に取り込むことでデータベース化ができ、プラットフォームとして一つのシステムで完結できています。今後はさらに、国際事務企画部と各拠点という縦のコミュニケーションだけでなく、拠点間の横のコミュニケーションにも活用してもらえるようなポータルにしていきたいですね」と芝沼氏。
「市民開発」で問い合わせ以外の新たな機能を追加、生成AI機能「Now Assist」の活用準備も進める
単純な問い合わせポータルの枠を超えたいということで、国際事務企画部は25年2月、プラットフォームの名称を「Inquiry Platform」から「Global Operations Portal(通称GO PORT)」に変更しています。
「『Port』(船着き場)という言葉通り、様々な情報をこのポータルを通じて世界に発信したいという思いを込めています。情報を集約し、ナレッジを蓄積することにより、グローバル全体の業務レベルやサービス品質が底上げされることを期待しています」と大西氏は名称変更の意味を説明しました。
問い合わせ以外の機能をプラットフォームに追加するため、D&Dチームは開発やPoC(概念実証)を継続的に行っています。難易度が低い開発要件においては行員自らが開発を手掛ける「市民開発」も盛んに行われているそうです。また、今後は生成AI機能「Now Assist」も積極的に活用し、「GO PORT」の機能を充実させることも考えています。同チームでは、問い合わせの内容を「Now Assist」に要約し、ナレッジとして蓄積するためのPoCを実施しています。
「他の生成AIを使った要約と比較検討したところ、『Now Assist』による要約のレベルは同等以上で、実務に耐え得る可能性が高いことが分かりました」と大西氏は言います。
最後に溝口氏は、「『GO PORT』で国際事務企画部と海外各拠点間のコミュニケーションがより密になり、強靱な“One Global Operations”を実現できるようにするのが、我々の究極のゴールです。D&Dチームがその要となり、今後もその目標に向かってServiceNowを活用しながらデジタル変革を推し進めていきます」と抱負を語りました。