日米欧の3拠点でグローバルなITサービス管理体制を構築
承認申請のフローのアプリケーションを開発から4カ月で稼働
ワンインスタンスで新しいソリューションを比較的短期間で導入しDXを加速
「Total Care Platform」を目指してDXを推進
「世界中の人々の健康で豊かな生活に貢献する」というパーパス(存在意義)を掲げ、医療用医薬品をはじめとするヘルスケアプロダクツをグローバルに提供している第一三共。2021年に策定した第5期中期経営計画では、『サステナブルな社会の発展に貢献する先進的グローバルヘルスケアカンパニー』を目指すという『2030年ビジョン』を掲げています。 その実現をデジタルテクノロジーによって支えるため、同社はDX推進ユニットを立ち上げました。
第一三共が目指すDXのゴールは、患者への提供価値のさらなる向上のため、創薬基盤とデジタル技術により、一人ひとりに最適なヘルスケアソリューションを提供する「Total Care Platform」(トータルケアプラットフォーム)の実現です。中でも、グローバルで利用するIT基盤の整備は、整合性の取れた“グローバルDX”を推進するために欠かせない取り組みでした。
「その基盤の一つとして、世界的に評価の高いServiceNowのプラットフォームを活用しています」。そう語るのは、DX推進ユニットの戦略を策定し、第一三共のデジタル変革をリードするDX推進本部 DX企画部長の上杉康夫氏です。
上杉康夫 氏
DX推進本部 DX企画部長
第一三共株式会社
ITサービス管理のグローバル化を目指す
第一三共がServiceNowを最初に導入したのは16年のことです。ITインフラやハードウェア、アプリケーションなどの運用を維持管理するためのソリューションである「IT Service Management(以下、ITSM)」を採用したのが、そもそもの始まりでした。
その導入経緯について、「事業のグローバル化が本格化し、複数のリージョンをまたいで使用されるアプリケーションなどが増えてきたことから、ITサービス管理・ヘルプデスクもグローバルに行う必要性が生じました。体制はそのままに、プロセスとツールの標準化の実現に対応できるいくつかのソリューションを検討した中から、最もふさわしいと判断して選定したのです」と振り返るのは、同社 DX企画部 主幹の山光由佳氏です。
ソリューションの選定は、第一三共の中でもとくに事業規模の大きな米国とヨーロッパ、そして本社のある日本の3拠点が共同で行いました。最終的にServiceNowのITSMを選定した理由について、山光氏は「グローバルに利用できるという当社の要求を満たしていることに加え、世界的に高い評価を受けていること、開発から実装に至るまでの支援体制が整っていること、高い品質を求められる製薬業界の規制事項に対応できることなどが大きな決め手となりました」と説明します。
リージョンごとの利害を巧みに調整
こうして、ServiceNowのITSMの導入は決定しましたが、その上でどのような管理プロセスを回すのか、サービスメニューはどのように構成するのかといったことは、3拠点の中で意見が分かれたそうです。
「グローバルなITサービス管理が目的なので、すべてのリージョンを統合した『グローバルワンインスタンス』(グローバルで一元化されたプラットフォーム)で運用することは合意できました。しかしプロセスやメニューについては、各リージョンが慣れ親しんできたやり方に合わせてほしいといった要望がぶつかり、意見を集約するのが容易ではありませんでした」と山光氏は明かします。
その調整役として、第一三共が高く評価したのはServiceNowがプロジェクトに派遣したエンゲージメントマネジャーの存在です。ITSMの機能を最大限に引き出せるプロセス構築やメニューづくりの知見を持ち合わせた上で、3拠点の要望に客観的な立場から耳を傾け、開発ベンダーのプロジェクトチームと共にグローバル全体が満足できる最大公約数の解決策を提案しました。
「エンゲージメントマネジャーがプロジェクト全体をうまくコントロールしてくれたことが、滞りなく稼働に漕ぎ着けられた要因の一つだと思います」と山光氏は振り返ります。
ITサービス管理以外にも活用の幅を広げる
ServiceNowのITSMを利用してグローバルなITサービス管理体制を構築した第一三共は、さらなるステップとして、より広範囲な業務でServiceNowの活用を始めています。すでにグローバルワンインスタンスが構築されているので、グローバル全体でも、リージョンごとでも、新しいソリューションを比較的短期間で導入できる環境が整っています。20年には米国拠点がHR Service Delivery(従業員向けサービスを向上するソリューション)をリージョン利用として導入しました。
グローバルにおいては、世界のがん事業を統括する部門が21年に発足したことを受け、リージョンをまたぐ承認申請のためのワークフローを急きょ構築する必要が生じ、そのアプリケーションをServiceNowのApp Engineで開発しました。
「すでにグローバルのプラットフォームは整っていますし、ノーコード・ローコード開発に対応したApp Engineを使用すれば開発も短期間で済みます。開発ベンダーの尽力もあり、結果的に、わずか4カ月ほどで稼働させることができました」(山光氏)
この他、同社はServiceNowのStrategic Portfolio Management(以下、SPM)を使って、グローバル全体のIT投資プロジェクトを管理する仕組みづくりなども進めています。各リージョンからの申請を自動的に取りまとめ、ステータスまで確認できるSPMの導入によって、業務は格段に効率化しそうです。
最後に上杉氏は、「今後より幅広い業務や、お客様へのサービスにも利用の可能性を視野に入れて、DXをさらに加速させていきます」と抱負を語ってくださいました。