問題に迅速に対応して解決する能力は、単なる効率の指標ではありません。これは、組織のレジリエンスと信頼性に不可欠な要素です。インシデント管理における主要な測定基準を追跡することは、問題点を把握し、課題を迅速かつ効果的に克服して、継続的な IT 運用を維持する方法を理解することにつながります。測定基準は、顧客満足度に対する組織のコミットメントを際立たせると同時に、改善すべき領域を特定するために役立ちます。MTTR (平均解決時間、Mean Time To Resolve) は、そういった測定基準の 1 つです。
- 平均応答時間 (Mean Time To Respond)
- 平均修理時間 (Mean Time To Repair)
- 平均復旧時間 (Mean Time To Recovery)
- 平均復元時間 (Mean Time To Restore)
特定の状況において「R」が何を意味するかにかかわらず、MTTR は故障したコンポーネントやシステムを修理して運用可能な状態を回復し、問題を解決するために必要な平均時間を定量化したものです。これは、軽微な不具合から大規模な停止まで、問題に正確かつ迅速に対処するチームの能力を反映しています。MTTR を理解して最適化することは、組織がインシデント管理プロセスの問題を特定するために役立ちます。これは、オペレーショナルレジリエンスを強化し、予期せぬ中断に遭遇してもビジネス機能を継続させ、組織に対する顧客の信頼を維持することにつながります。
MTTR の全体像を理解するには、組織内におけるその価値と解釈に影響を与えるいくつかの重要な要素を認識する必要があります。これらの要素には、MTTR と相互作用して補完するさまざまな障害測定基準、これら測定基準の根拠となる信頼性、可用性、メンテナンス性の基本原則、そしてそれらがさまざまな方法論やフレームワークの中で実際にどのように適用されるかが含まれます。
障害測定基準の特定と追跡は、インシデント管理の重要な要素です。さまざまな形式で提供される MTBF (平均故障間隔)、MTTF (平均故障時間)、MTTI (平均特定時間)、MTTA (平均確認時間)、MTTR などの測定基準は、資産の信頼性、パフォーマンス、メンテナンス要件に関する貴重なインサイトをもたらします。
数字とその意味を正確に把握することで、組織は展開からメンテナンスや交換まで、システムとデバイスのライフサイクルについて計画を立てることができます。障害測定基準により、リソースがいつ、どのように割り当てられているかを包括的に把握し、運用の完全性を維持することができます。
信頼性、可用性、メンテナンス性 (RAM) は、資産の全体的なパフォーマンスと運用効率への影響を評価するために役立ちます。
- 「信頼性」とは、所定の条件下で、指定された期間にわたって、システムやコンポーネントが求められる機能を発揮する能力を指します。
- 「可用性」は、システムが有効に機能する状態にある時間の割合を測定したものです。
- 「メンテナンス性」は、システムの欠陥を修正したり、運用可能な状態を回復したりするために、どの程度容易にメンテナンスできるかを評価します。
MTTR は修理時間に焦点を当てているのに対し、MTBF はシステムの平均故障間隔を測定したもので、信頼性を示します。MTTA はチームが問題を特定するスピードを追跡し、MTTF は資産が修理不可能になるまでの寿命を予測します。各測定基準がシステムの健全性と効率性に関して独自の視点を提供しており、MTTR は特に修理とメンテナンスプロセスの有効性を表しています。
MTTR は、ITIL、DevOps、継続的開発などのさまざまなコンテキストで適用されており、いずれもこの測定基準を使用してシステムの信頼性とパフォーマンスをモニタリングし、向上させています。
- ITIL における MTTR
ITIL (IT インフラストラクチャライブラリー) の枠組みにおいては、インシデント管理プロセスの効率、機能停止やその他の障害からのサービス復元能力を評価するために MTTR が使用されています。これは、インシデントレスポンスやサービスレベルアグリーメント (SLA) の有効性のベンチマーキングに役立ちます。
- DevOps における MTTR
DevOps の環境において、MTTR はチームがインシデントからどの程度迅速かつ効率的に回復できるかを測定するための KPI として機能します。継続的デリバリと展開のサイクルを維持し、エンドユーザーと運用ワークフローへの影響を軽減するためには、迅速な応答と解決時間が重要であることを強調しています。
- 継続的開発における MTTR
継続的開発に重点を置いた環境において、MTTR は迅速な展開サイクルを維持し、サービスの中断を最小限に抑えるために不可欠です。これにより、チームは迅速に製品に対する反復と改善を行い、あらゆる問題に迅速に対処して、高いレベルのサービス可用性とユーザー満足度を維持できるようにすることが可能になります。
ほぼすべての企業が、コスト、可用性、製品とサービスの品質、ビジネスの評判、顧客との関係の点で競合しています。MTTR がもたらす明確なインサイトを通じて、これらの各領域を最適化することができます。MTTR を効果的に管理し、改善に取り組むことで、組織はオペレーショナルレジリエンスを大幅に向上させ、予期せぬ中断に直面してもアジャイルでレスポンシブな態勢を維持し、信頼性の高いより優れたサービスを低コストで提供することが可能になります。簡単に言うと、MTTR が短いほど、インシデントからの迅速な復旧が可能であり、ビジネスオペレーションとカスタマーエクスペリエンスへの悪影響を最小限に抑えることができます。
- 問題がある領域のより正確な特定
MTTR データを分析することで、組織は障害が頻繁に発生している注意が必要なシステムやコンポーネントを特定し、より的を絞った改善につなげることができます。
- ダウンタイムの短縮
MTTR の短縮は、システムが利用できない時間の短縮に直結しているため、運用の中断を最小限に抑え、継続的なサービスデリバリを維持するために不可欠です。
- より信頼性の高い内部システム
MTTR の定期的な追跡と改善により、事前対処的なメンテナンスと、問題につながりかねない課題の迅速な解決が促進されるため、システムパフォーマンスの信頼性が向上します。
- 生産性の向上
システムとコンポーネントの修理時間が短縮されるため、従業員が業務で使用するシステムの中断が減少します。これにより、生産性が向上し、業務がより円滑になります。
- コスト節減の向上
迅速な解決により、トラブルシューティングに費やす時間が短縮され、顧客対応に向ける時間が増えます。この効率性によって直接修理のコストが削減され、ダウンタイムに伴う間接的なコストも軽減されます。
- ブランドの評判と顧客からの信頼の向上
サービスとオペレーションが最小限のダウンタイムで確実に維持されるようにすることで、企業はよりポジティブなブランド評価を獲得できます。顧客やクライアントのロイヤルティを維持できるのは、オペレーショナルエクセレンスとレジリエンスへのコミットメントを示す企業です。
- 収益の増加
上述のメリットが総合的にもたらす最終的な結果が、収益の増加です。MTTR を効果的に追跡し、得られるインサイトを適用する企業には、全体的な改善がもたらされ、収益に直接影響します。
MTTR の算出は比較的単純ですが、有意義な結果を得ることができます。まず、特定の期間内にすべてのインシデントを解決するために要した合計時間を合算します。次に、その合計を同じ期間におけるインシデントの合計数で割ります。これは、次のように表されます:
(解決時間の合計) / (インシデントの合計数) = MTTR。この計算で得られる平均時間は、組織がどの程度迅速に問題に対応・修正できるかを表し、この明確な測定基準を経時的に追跡して改善に取り組むことができます。例えば、ある企業が 1 か月間に次のようなインシデントとダウンタイムを経験するとします。
- インシデント 1 復旧時間:2 時間
- インシデント 2 復旧時間:4 時間
- インシデント 3 復旧時間:1 時間
この期間について MTTR を計算するには、解決時間を合計し (2 + 4 + 1 = 7 時間)、インシデント数 (3) で割ります。したがって、この月の MTTR は次のようになります:
(7 時間) / (インシデント数 3) = 2.33 MTTR。この結果は、この会社が各インシデントの復旧に平均で 2 時間強を要したことを示しています。この測定基準を経時的に追跡することで、傾向を把握し、対応戦略の有効性を測定するとともに、改善が必要な領域を特定することができます。
運用効率の向上は、MTTR の正確な算出にかかっています。ところが、この計算の精度を妨げ、測定基準の信頼性、さらにはメンテナンスと修理戦略の成功にも影響を与える可能性がある障害がいくつかあります。
MTTR 算出に関連する最も一般的な課題には次のようなものがあります。
MTTR 算出の主な障害の 1 つは、一貫性のないデータ記録方法です。これは、何をもってインシデントの開始と終了とするかについて、チームごとに異なる基準を使用していることや、修理作業の文書化が不完全であることなどが原因となります。
すべてのチームに標準化されたデータ記録プロトコルを導入し、これらの手順に関する厳格なトレーニングを実施することで、一貫性の欠落を大幅に減少できます。一元化されたインシデント管理ソフトウェアを使用すると、データキャプチャの自動化や標準化も可能になるため、MTTR の正確な追跡が容易になります。
前の項目と同様に、修理とメンテナンスの作業を処理・記録するための標準化された手順がないと、MTTR の算出に大きなばらつきが生じる可能性があります。統一されたアプローチがないと、経時的または異なる部門間でパフォーマンスを比較する際に信頼性が低下する恐れがあります。
すべてのメンテナンス・修理プロセスについて、明確で包括的なガイドラインを策定し、周知することが効果的な解決策となります。これらのガイドラインは、インシデントの報告から最終的な解決までのすべてを網羅し、すべてのステップが一様に理解・遵守されるようにする必要があります。これらの手順を定期的に監査して見直すことで、手順の有効性を維持できます。
修理タスク自体が、数分で済む単純な修正から、解決までに数日あるいは数週間を要する複雑な問題まで、多岐にわたります。このばらつきによって MTTR の算出に歪みが生じる可能性があり、体系的な非効率性と本質的に時間のかかる修理を区別することが難しくなります。
複雑さや修理のカテゴリに基づいてインシデントデータを区分することで、MTTR をより詳細に把握できるようになります。このアプローチにより、組織は同種のものを比較でき、簡単な修正とより複雑なタスクを区別することができます。高度な分析の適用もパターンと外れ値の特定に役立ち、全体的な MTTR に不当な影響を与えない、的を絞った改善が可能になります。
MTTR に対する体系的なアプローチにより、インシデント全体の一貫性が確保され、継続的な改善のためのデータ分析が容易になります。MTTR プロセスには、障害の最初の通知から最終的に資産を本番環境に戻すまでの重要なステップがいくつか含まれます。組織によってこのアプローチに変更が加えられることがありますが、ほとんどの組織が以下に説明するような構成に沿っています。
障害が発生すると、このプロセスが開始され、アラートがトリガーされます。平均確認時間 (MTTA) は、このアラートの確認にかかる時間を表します。その後の修理時間は MTTR の一部として記録・評価されます。MTTA とは異なり、MTTR の測定基準はイベント後にのみ関連するものであることを認識することが重要です。MTTR が提供するインサイトは、障害が特定され確認された後からの対応と解決の効率に関するものです。
技術者は、MTTR 期間中に収集されたデータをレポートメカニズムとして活用して、障害の性質と根本原因について理解を深めます。このステップは、修理に対する最も効果的なアプローチを特定するために重要です。問題が再発した際には、その根本原因への対処に労力が適切に割かれるように努めます
技術者は、診断情報やアラートに基づいて、障害の根幹で問題の解決に取り組み、今後資産のダウンタイムを最小限に抑えることを目指します。このステップには、故障したコンポーネントやシステムを修正するために必要な実際の修理作業が含まれます。ここで活用されるのが技術的な専門知識と診断段階から得られたインサイトです
通常、修理後にはシステムやコンポーネントの組み立て、調整、キャリブレーションが必要となります。これは、資産が求められる仕様内で動作し、確立されたパフォーマンス基準を満たすようにすることに重点を置いています。
MTTR プロセスの最後のステップでは、修理された資産のセットアップ、テスト、起動を行い、通常の本番運用を再開します。MTTR は、最初の障害から資産が完全に再稼働するまで、機能を復元するために必要なすべての作業を含めた期間全体を対象とします。
MTTR を改善するために組織が導入できる戦略はいくつかあり、それぞれメンテナンスと修理プロセスの異なる側面に焦点を当てています。
予防的メンテナンスのアプローチ (予知保全や状態ベースのモニタリングなど) により、組織は潜在的な問題が重大な問題にエスカレートする前に予測して対処することができます。メンテナンスチームは、モニタリングデバイスからのデータを分析することで、将来の障害を示す可能性のある傾向をより簡単に特定できます。このアプローチにより、都合の良い時間に修理のスケジュールを組めるため、計画外のダウンタイムや修理の緊急性が低減され、MTTR の短縮につながります。
問題解決と意思決定に加えて技術的スキルに焦点を当てたトレーニングの拡充により、技術者が最も迅速で効果的な解決方法を特定できるようにします。技術者が適切なトレーニングを受けることで、問題に真に対処した適時の修正が可能になり、間に合わせの仕事による将来のダウンタイム長期化を回避することができます。
高度なインシデント管理システムは、障害、修理、ダウンタイムのトラッキングを自動化し、パターンやボトルネックの特定に役立つリアルタイムデータを提供します。また、これらのシステムは、チームメンバーやステークホルダー間のコミュニケーションを促進し、情報の提供を通じて全員が解決プロセスに寄与するめに何をすべきかを把握できるようにします。詳細なインシデントレポートとアナリティクスにアクセスできるため、組織はメンテナンス戦略を継続的に改善し、MTTR を最も効果的に短縮できる特定の領域を絞り込むことができます。
MTTR やその他の測定基準は、インシデント管理の強固な基盤を提供します。組織がパターンや非効率性を検出し、システム可用性を最適化するために必要な信頼性の高いデータで組織を支援します。ServiceNow AI Platform とインシデント管理は、この領域で重要な役割を果たし、インシデントを始めから終わりまで管理するための包括的なフレームワークを提供します。ServiceNow は、複数の部門間のインシデント管理プロセスを統合することで、リアルタイムのデータアクセスと効率的なリソース割り当てにより組織を強化します。
ServiceNow AI Platform は、高度なアナリティクスとカスタマイズ可能なワークフローを提供します。定型的なタスクを自動化し、インシデントへの対応と管理能力を強化するとともに、リスクに対してより予防的なアプローチを取りながら、インシデント管理の採用方法を継続的に改善し、目標達成を目指します。運用のパフォーマンスを最適化し、システムの可用性と機能性を高いレベルに維持したい企業にとって、ServiceNow がその答えとなります。
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